漫画のメモ帳

早口で漫画について話すブログ

感想メモ2:電子書籍サイト広告の威力がすごい… 曽根富美子/新なるもの断崖、花津ハナヨ/情熱のアレ、尾崎衣良/外面が良いにも程がある

スマホで色々なサイト見てるとかなりの数の漫画広告を目にしますが、限られたコマと煽り文ですっごく面白そうに見せるものが結構あるんですよね。2回、3回と目にふれると気になって買ってしまう。そして私の他にも同じような人はたくさんいるようで、面白そうな広告が出た漫画って、必ずと言っていいほどアマゾンkindleのランキングの上位に食い込んでくる(ほとんどrentaとかメチャコミとかシーモアの広告なんですが、アマゾンにも貢献しているという…)

そんなわけで、広告につられて買った漫画3つ。

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 曽根富美子/親なるもの 断崖(第1部、第2部【完結】)

著者の作品は、児童虐待家庭内暴力・不和、先天性障害、いじめ、精神疾患…等々、主に現代社会の中の問題を題材に扱った作品が多い。しかしこの「断崖」は、それらいつもの内容とは少し違って、昭和初期の遊郭が舞台となる作品。そして、ここでクローズアップされるのは「貧困」「階層」「性の消費」。遊郭に売られた貧しい農村の少女達。成り上がる者、ボロボロになる者、生き抜く者、死ぬ者…それぞれの過酷な人生を描いた作品。

遊郭モノって、華やかだけれど悲しい女の運命や、お色気シーンなんてものが押し出されたりするものだけれど、この作品ではそういう要素は薄い。貧乏さ、不潔さ、肉体的辛さが際立っていて、埃と小便と血の匂いがするよう。吉原や新町や島原でなく、冷たい北の大地が舞台なのもよりその過酷さを煽っている。悲惨な状況で、見ているのもつらいのに、なぜか読むのを止められない。面白い…という言葉が適当なのかわからないが、過酷な環境を生き抜く人々の行く末に惹きつけられてしまう。

親なるもの 断崖 第1部 (ミッシィコミックス)

 

花津ハナヨ/ 情熱のアレ(1巻~4巻【完結】)

 彼氏とのセックスレスに悩む主人公の姿が前面に押し出された広告だったので、そういうカップルの悲喜こもごもを描いたお話なのかと思いきや、ちょっと違った。セックスレスはあくまでスタート地点だった。ヒロインは、この彼氏との苦い思いをきっかけのひとつとして、もっと人々がセックスを楽しめるようにと、OLをやめてアダルトグッズのバイヤーに転職するのだ…すげぇな!!!まさかのキャリアアップ物語。

しかし、ヒロインがおしゃれ美人なのはともかく、その勤め先のアダルトグッズ卸にもイケメンで高学歴で仕事できる男がいたりして。さらにその人が人格者で、この仕事への熱い思いを語ったりするのだ。うーん、そこまでキラキラな演出しなくてもいいのに。逆に「やましいことじゃないんだよ!」って言い訳しているように感じられる。素敵な恋愛と、主人公の真面目さと、アダルトグッズ卸業という要素が微妙に不和を起こしてる。どれか1つに振り切れればもっと楽しめたかも。

情熱のアレ 1 (クイーンズコミックスDIGITAL)

 

 尾崎衣良/外面が良いにもほどがある(単巻)

 オムニバス4本からなる短編集。タイトルの話は、ゆるふわスイーツな同僚に見下されてしまうような、地味で何かと割を食う女性がヒロイン。しかし、実は彼女はとても美しく強か。そして、パッと見で彼女を見下していたリア充イケメンは図らずも彼女の虜になってしまう…といった内容。

どの話も、上っ面がいいだけのズルい男女を、内面がしっかりしていて実はハイスペックな主人公たちが蹴散らしていく構成。水戸黄門的王道さで結構すがすがしい。「実は見ていてくれる素敵なヒト」が必ずいるあたりが少女漫画的か。中学生の妄想の例として「全校生徒のまえで超絶技巧なバンド演奏でモテモテ」なんてのがあるけれど、あれをOL・会社員の恋愛版に落とし込んでもう少し現実味を加えた感じ。

2ちゃんの家庭板鬼女板まとめとかで、非常識な親戚や伴侶やご近所に一発喰らわせるエピソードが載ってたりするけれど、それに話の流れや雰囲気がとても似ている。頑張っている、正しい常識感覚を持った人が最終的に良い思いをする世界。いいね!

外面が良いにも程がある。 (フラワーコミックスα)

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というわけで、広告につられて買った作品だけれど、大外れな感じのものは今のところありません。今後もバリバリつられそう。

 

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亜人ちゃんは語りたい/ペトス(1~2巻【以下続刊】) 亜人ちゃん100点だけどセンセー25点

亜人ちゃんは語りたい(2)

吸血鬼や雪女といった「妖怪」「怪物」の要素を持った人間が存在する世界。彼らは「亜人(デミ)ちゃん」と呼ばれ社会に受け入れられてはいるものの、その体質が故に人と上手く近づけずに寂しさやコンプレックスを感じている。そして、その亜人に人一倍の関心を持つ高校教師・高橋。彼の勤める高校を舞台に、彼と、女子高生デミちゃんたちとの触れ合いと成長を描いたお話。

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かわいい亜人要素

この作品の魅力はやっぱりデミちゃんたちの可愛さ。悩む様子も、恋する様子も、はしゃぐ様子もすっごくかわいい。亜人の独特の体質や悩みがさらに彼女たちの可愛さを増して見せている。日常の女子高モノに、亜人というアイテムがうまく合わさってる。

また、「亜人」だからいじめられる…みたいな差別的なストレス展開もほとんどないのが良い。主に問題となるは、デミちゃんが自ら亜人としての特性を意識しすぎて、悩み引っ込みがちになっていること。地味な子が「自分こんな華やかな人と付き合ってはいけない」と身を引いてしまう展開なんかがよくあるけれど、構造はそれと同じ。同じなんだけれど、亜人という要素で展開にバラエティがあって面白いのだ。

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ペトス.亜人ちゃんは語りたい.1巻.第3話「小鳥遊姉妹は争えない」より.:亜人ギャグ。この吸血鬼の子は元気いっぱい。表情豊かなちょいバカキャラで超かわいい。

そして、このコンプレックスを取り除くのが高橋センセー。人一倍亜人に興味があるセンセーは、彼女たちに一歩近づいて、優しく心を開いていく。温かい日常物語。

センセー、お前…

しかしこのセンセー、作中では「大人で、分別があって、道徳的」な存在として描かれているんだけれど、行動が微妙。

例えば1巻の「雪女」への対応。彼女は、何がきっかけで自分が冷気をまき散らすのかわからず、傷つけることを恐れて近づく人々を遠ざけてしまう。一部の同級にはそれが「スカしている」と映り悪口を言われてしまう。そして、そんな雪女の苦しみ気づいたセンセーは、彼女をなだめるため思わずハグをする。亜人故の苦悩に、よりかわいそうに思って抱きしめる…おう。

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ペトス.亜人ちゃんは語りたい.1巻.第7話「高橋鉄男は守りたい」より.:悩む姿に、思わずギュッと。普通の生徒より一層守らなきゃとの気持ちからっぽいけど…

1巻全体としてはデミちゃんの可愛さや、設定の面白さ、テンポの良さが遥かに勝っていたのでこのハグも特に気にならなかったのだけれど…2巻。基本のスタンスもテンションも1巻と変わらないのだけれど、またこいつなんかやってるぞ。素面で突然の名前呼び、突然のセックス発言。

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ペトス.亜人ちゃんは語りたい.2巻.第15話「亜人ちゃんは呼ばれたい」/番外編「小鳥遊ひかりはバンパイア」より.:チャラ男か。

高橋は基本ずっとこんな調子で、騒ぐほどじゃないけどジリジリ違和感が増えてく。これって普通なのか。相手が嫌がってないからOKか。(知り合いの教師なんて男女問わずかわいそうなくらいその辺気を遣っているぞ。)「天然タラシ」なんて形容が作中であったので、多分「本人は大人の余裕で何も意識してないけれど、された側はドキドキ」という演出なんだろうけど。相手がまだ子供で、尚且つコンプレックスを抱えているのをいいことに、強い立場から調子乗ってるいけ好かないやつっぽく見えるぞ。なーにやってんだおめぇ。

先生モノにありがちな萎え

教師生徒の恋愛モノや学園モノでたまにあるんだけれど、「真面目な先生」設定のはずなのに生徒との距離感や言動がおかしいと萎える(もともと「フランク、型破り、適当」とかいう設定なら全く気にならないないのだけれど)。いい大人がまともなフリしてチョロい子供にチャラついてるっぽくなる。

この高橋も、地味で真面目で分別がある大人として描かれているのに、言うことやることがチャラ系イケメン男子高生みたいでチグハグ。そして、これらの行動全てが、女子生徒の心を溶かすイカしたもののように描かれ、人格者として賞賛されている。なんだかなぁ。

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ペトス.亜人ちゃんは語りたい.2巻.第10話「サキュバスさんはいい大人」より.:髪が伸ばせないデュラハンに対して「自分とお揃いでいい」と言う。おっさんが女子高生に「自分と同じ髪型でいいじゃん」って、冗談でもかなり自信がないと言えないぞ。風早くんでも言わないだろう。

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何でもかんでも「非現実的!配慮足りない!」なんてPTA的なことを言うのはナンセンスだけど、この高橋はヤダ。生徒同士で絡んでるシーンはひたすらかわいくて青春なのに。もったいない!

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感想メモ:日本アニメータ見本市 ENDLESS NIGHT/攻殻機動隊新劇場版/バケモノの子/娘の家出3巻

読んだ漫画見たアニメすべてについて記事を書くつもりで始めたブログですが、普通に無理でした。見た読んだものの中から、一記事に満たない分量のメモを何点か。

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日本アニメ(ーター)見本市「ENDLESS NIGHT」

これはあたり!音楽1曲に乗せて、一人の男性フィギュアスケーターの成長が描かれる。ストーリーらしいストーリーはありません。音楽と、映像を楽しむ内容。モノトーンと差し色1色のシャープで引き締まった画面。廊下をするする滑る絵は気持ちいい。飛ぶところはちょっと重さが足りない?

普通の1,2クールの連続ストーリーものだけでなくて、もっとこういう音楽と動きと綺麗さだけで魅せる作品が増えてほしい。テレビの視聴率がゴールデンでも一桁なんて聞くと、もはや基本何をしても万人受けは見込めないのだから、こういうアニメ流してみればいいじゃないと思ってしまう。だめ?

ちなみにキャラデザが上条淳士。線の鋭い感じが動画になっても尚生きてる。主人公めっちゃイケメン。イケメン。10代半ばの主人公と20代後半の主人公がペアスケーティングするところは若干BLっぽさがありますが…

animatorexpo.com

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攻殻機動隊新劇場版

攻殻機動隊は私の中では「よくわからなくても、したり顔して楽しむアニメ」なのですが、予想以上に素直に面白かった(もちろんばっちり理解できた気は全くしないのですが)。

古い規格の維持or新規格による進歩の選択…なんてOA機器やAV機器の話みたいだが、それが人体パーツの話になるとまさに生死をかけた争いになるってのは割とピンと来た。そして、こうしたハードの規格の戦いのさらに先に行こうとしたクルツ。彼女と素子の来し方行く末はロマンチックでよい。こうした感傷的なロマンスは好き嫌い分かれそうだけど、私はかなり好き。ラストをコミックス1巻に綺麗につなげたのも0章モノとしてばっちり。SACではなく漫画の前綺譚。

笑いどころは、黒幕っぽくてただの育ちの良いお坊ちゃまだった議員2世と、工務店スマイルのパズと、素子の銃の台座になるボーマ。

 

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バケモノの子

OP・冒頭~バケモノの世界へ行くところまでは映像も雰囲気も良くてわくわくしたんだけれど、そこがピークだった。旅のシーンとか現代のシーンとか、色々入れたかったんだろうけど、思い入れやら何やら持つ前にあれよあれよと終了で消化不良。ヒロインとライバル、心の闇のエピソードも同じく。詰め込み&喋りすぎり。映画館は満席でした。すごい。

ちなみに、サマーウォーズやおおかみこどもですが、どちらも好きです。でもバケモノはあまり好きにならなかった。残念。

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娘の家出3/志村貴子

志村貴子はかわいいくて健全っぽい絵柄でありながら、一線を踏み超える少年少女がさらっと描かれてて、そのギャップから結構なブラックさを感じてしまう。そして安定して面白い。

そしてこの娘の家出も同様。地味で素朴で無害そうな女の子が不倫、かわいいアイドルが足コキ…。普通のピュアな片思いエピソードと並んでさらっと描かれてるから、あれ、世の中こんなもんか?って思っちゃう。いやいや、そんなに乱れてないから。あれでもそんなことないのかな?大したことなくはないけど、まぁ少女の普通の範疇?そんな感じで翻弄されつつ楽しみました。

娘の家出 3 (ヤングジャンプコミックス)

 

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老人Z/監督:北久保弘之/脚本:大友克洋 暴走する介護SF

老人Z HDマスター版 [DVD]

1991年公開の長編アニメ。最初に観たのはNHKBS。内容はほとんど理解していなかったがなぜか記憶に残り、その十数年後の2007年くらいに再視聴&爆笑、Amazonの欲しいものリスト入り。そして2015年、埋もれたリストの底から発掘、ついにDVD買っちゃった。

同じアニメで2度爆笑することは無いだろうと思っていたのだけれど、今回も同じシーンで声を出して笑った。20年以上前の作品なのに、未だに超面白い。

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バブル感が残る日本が舞台。厚生省厚労省ではない)の専らの課題は高齢化社会における老人介護の対応。彼らは民間企業と連携し、足りない人手の対策として、体調管理から食事・着替え・入浴およびシモの世話までを全自動で行う超高性能ロボット「Z-001号機」を開発。そして、このモニターに高沢という一人の老人が選ばれる。

「家族は同意済み」と、有無を言わさず連行される高沢…そして、そんな様子を目の当たりにしていたのが、看護学生のハルコ。彼女は、機械に繋がれた高沢からのSOSを受け取り、彼を解放しようとコンピュータに精通した老人たちに助けを求める。そして、ハルコの呼びかけが通じた時、Z-001号は自我を持ち、あらゆる無機物を取り込みながら暴走を始める…

まったく繊細でない人とロボットの物語

ハルコは「こんな機械に繋がれて、お爺さんかわいそう」という憐れみと正義感から行動を始める。効率化のための機械化と、ホスピタリティや人間らしさの対立やらが作品の要素の一つ。

どこまでも深刻捉えることができる題材だけれども、重さや暗さは全く感じられない。「はるこさ~~~ん、もらしちゃうよ~~~」なんて冒頭の高沢老人の叫びからして、老いに対してウケを狙っている空気を感じる。

お前も機械にしてやろうか

若者側の自分からすれば、このZ-001号機は実際かなり便利そうだなぁと思ってしまう。下の世話も自動で清潔なんてかなり魅力的だし、ネットも可能なんて聞くと娯楽もばっちり、完璧な装置に感じられる。

しかし、機械にがっちり繋がれた側はたまったもんじゃないのだろう。少なくとも、この高沢老人はそうだった。こうした苦痛は静かな音楽とか哀愁漂う表情等の演出がされてもいものだけれど…そんなものは全くなく、終始描かれるのはギャグテイストの「暴走」。「機械化、政策?なにそれ?窮屈なの嫌、海行きたい~」…そして老人は走りだす。

一連の暴走シーンはもう最高

このZ-001には、ヒマな老人の会話相手を作るために、老人の記憶から人物を再現する機能がある。これが暴走の原因。高沢の記憶にいる他界した妻「はるこ」が再現されたうえ人格を持ってしまい、苦しんでいる老人とともに二人の思い出の地へ向けて走り出してしまう。

「かあさーん。めし~~」という高沢に「お爺さん、ちょっと待ってくださいねぇ」なんて品の良い老婆の声で答えながら、機動隊や警官をなぎ倒し商店街を破壊する。

特に好きなのは、モノレールのシーン。Z-001はあらゆる無機物を取り込み巨大になり、果てにはモノレールの線路上を爆走し、乗客を乗せた車両を華麗にかわしながら走り続ける。ここの動きが本当に素晴らしい。何度見たって笑う。

肥大化したZ-001のビジュアルもなかなかゴツイ。動く瓦礫の山だ。ラスト付近で、ハルコがこの山をよじ登るシーンがあるのだけれどその質量がものすごい。それもそのはず、エンドロールをみていたら美術設定が今敏だった。あまりクリエーターには詳しくないのだけれど、それでも見覚えのある名前がちらほら…豪華な制作陣によって描かれる「機械の暴走」。とても楽しい。

 なんかよくわからない明るさ

少子高齢化・労働力不足・資源不足なんてもう生まれてからずっと言われていることで、大げさに悲観こそしないけれども、決して楽観的な未来なんて簡単には想像できない。しかし、そんな題材を扱っていながら、このアニメは明るく適当。帰結も「安直なことすると大変なことがおきちゃうかも」って感じで基本的に何も解決はしないし。

とち狂った勢いと明るさがあれば、もうなんだっていい。そんな酔っ払いのようなハチャメチャさ。

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流石に絵柄は古い感じはあるけれど、だからといって敬遠してはもったいない。ハルコなんて、まわりまわって現代のカワイイにばっちり合致したビジュアル。扱う問題だって未だタイムリー。またテレビで放送すればいいのに。

 

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懲役339年/伊勢ともか(全4巻【完結】) ラスト4ページは映画のエンドロールのよう

懲役339年(1) (少年サンデーコミックス)

裏サンデーの連載作品。今(2015年8月)でも1部、2部と、最新話のエピローグがウェブ上で読めるよう。

最後まで読んで本当によかったと思えるような、素晴らしい物語構成の作品。

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中世ヨーロッパ風の世界、ここでは「前世」の存在が信じられており、社会制度にまで影響を与えている。国民の前世は役所で認定・管理され、前世で地位の高かったものは現世においても高い地位に就くことが約束されている。そして、このように「徳」が引き継がれるのと同じように、「罪」も引き継がれる…犯罪者の残した懲役も、次の生まれ変わりの人間が引き受けるのだ。そんな世界で大罪を犯した「ハロー・アヒンサー」。彼は339年という途方もない懲役刑をくらい、当然その刑期を全うすることなく死ぬ。そして、彼の罪を引き受けた少年「2代目ハロー」と、ある看守の出会いから物語は始まる。

想像以上の読後感

正直こんなに感動的な余韻が得られるとは思ってなかった…。いかんせん最初の方は絵が固く拙い(偉そうにすみません)。重みのある内容であるにもかかわらず、特に人物の絵がそれに追いついてきていないから、最初のほうはなんだかちぐはぐな印象。

絵を補って余りある演出と構成

それでもコミックスを買い続けたのは、ふとした瞬間に差し込まれる風景や小物の画面のセンスが良くて、「大犯罪者ハロー 残り懲役○○年」のナレーションのタイミングがかっこよく、そしてなにより全体の構成にぐいぐい惹きつけられたから。339年の懲役を消化していくわけで、当然、一人二人の生まれ変わりではお話は終わらない。何人もの「ハロー」の積み重ねから成る339年の物語。

最初の「2代目ハロー」の話は、40ページ弱で語られる一人の少年の物語。彼は、何が罪なのか、自分が一体何なのかも知らず、ただ刑務所の中でひたむきに生き続ける。少年の生に、「前世」という制度の虚しさが浮かび上がる。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第1部より.:言葉も理解せず、罪について考えることも答えることもできない。

 次の「3代目ハロー」の話も、ページ数自体はそれほど多くない。このハローは、先代のハローと違い、体躯、人格ともに立派に育った青年。彼は、考えることができる。自分の罪は何なのか、生きる意味は何なのか。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第2部より.:他の囚人と比べても引けをとらない体格。利発で、分別のある模範囚的存在。

そして、これら2代のハローを見つめた看守が一人いる。彼は、この2人のハローの生き様を目の当たりにしたことで「前世」について疑問を持ち始める。そして、その懐疑は、4代目ハローとその看守に引き継がれ、それはこの世界に変革をもたらす一石となる。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第3部第1話より.:4代目ハローは普通のカワイイ女の子。そして看守。運命の二人。

 2代目、3代目ハローの存在はどこか儚く、その話も1つの静かなオムニバスとしてまとまっている。それに対し、徐々に話が転がり始める4代目の話は100ページ弱。その次の5代目の話はさらにボリュームがある。最初は「前世」に縛られ、監獄の中で生を全うするだけの存在であったハローが、代を重ねるにつれて人との関わりを増やし、やがて大きな革命を成していく。

2代目のハローが種をまき、3代目がそれをあたため、4代目で芽を吹き、さらにその先のハロー達が大樹に育てる…そのように流れが大きくなっていく様が、4巻という少ない巻数のなかで話数配分も見事に作られている(絵もだんだん柔らかく素敵な感じに…)。

ラスト4ページは映画のエンドロールのよう

ラストはやはり339年後。現代の大学生によって、これら「前世」が信じられていた世界の物語が、とある小国のお話であったことが語られる。

人物の風貌や、「前世」というアイテムのために、何となくファンタジー物語のように感じていたのだけれど、この現代人の演出でそれが一気に私たちの世界に引き寄せられた感じ。物語が「ファンタジー」ではなく、「どこかであったかもしれない歴史」になり、現代と地続きになることでグッと重みを増したよう。

そして、ラスト4ページ。キャラの最後の表情から、いったん引きの風景画面になり、そして最後に339年の完了が告げられる…途方もない時間の流れの厚みが4ページに集約されている。夜空がキラキラしていてすごくきれい。文句無しの演出。そして表紙。最後に見返すと、背を向けているハロー達がそれぞれどんな表情でいるのかをこちらに想像させて、少し切なくなる。

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勢いを落とさず右肩上がりで、ラストはとてもとても高いところに着地した作品。本当に読んでよかった。

 

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新たに読んだ漫画買った漫画【2015年7月】

よかった順にざっくり並べて。作品名/読んだ巻数/(レーベル)/作者

【完結】

 

【単巻】

 

【続刊アリ】

 

【雑誌、他】

  • ヒバナ/2015年8/10号/ヒバナ編集部

 

【続刊アリ…でもひとまずココまで】

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ハピネス/押見修造(1巻【以下続刊】) 危うくて危うくてはきそう

ハピネス(1)

押見修造の作風は確かに好みのはずなのに、なんだか気軽に手が出せない。私が読んだことがあるのは、近年の「惡の花」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「ぼくは麻理のなか」の3作品だけだが、どれも「カースト下位的青少年」特有の惨めで恥ずかしくて目も当てられないような展開がこれでもかと描かれていて、苦しい。

青春のトラウマスイッチを押しまくるようないたたまれない状況を、どうしてこんなに的確に描けるのだろう。何かがうまくいかなくて、ゴロゴロと転げ落ちていく。読んでて心がゴリゴリ削られる。

そしてこの新作の「ハピネス」も、もう精神が削られる予感バリバリの作品。

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主人公は岡崎誠という高校生。彼はクラスの冴えない組に属していて、昼休みはいつもクラスのカースト上位的なヤツらにパシリにされている。でもよく見ると整った顔をしていて、イケテない割にちょっと雰囲気がある。幼少時代もカワイイ少年として描かれていて、幼気な感じも残っている。惡の華の高男を彷彿とさせるキャラ。

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押見修造.ハピネス.1巻.第1話「ノラ」より.:おばさんからみれば「カワイイ少年」の誠。うっかり何かの拍子で身に余る「モテ」を掴んでしまいそうな…でもそんな好機をうまく扱う器用さもなく、持て余して、破滅へと走りだしてしまいそうな…絶妙な危ういビジュアル。

そんな彼はある日、夜の街歩いていたところを人間離れした運動神経を持つ少女に襲われてしまう(表紙の彼女)。押し倒され、首から血を吸われ…そして世に流布する吸血鬼物語の通り、彼自身も血が欲しくて欲しくてしょうがない怪物になってしまう。ああ不幸。

 

そうだ、血といえば…

血に敏感になってしまう岡崎。そして、そんな彼が学校に来て一番に反応するのは、女子生徒の経血……

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押見修造.ハピネス.1巻.第2話「血のにおい」より.:目が座っている…視線の先はスカートの中。アウト。

もうこれだけで青春の破滅が目に見えてる…。そういや東京喰種とかの時にはあまり深く考えなかったけれど、身の回りで一番血を纏っているのは生理中の女だ。カッコイイ吸血鬼モノや人喰いモノで、女の股ぐらに悲劇の主人公が突っ込む様は見たことが無いし、今後も見たくもないけれど…押見修造ならやりかねない。というか100パーセントやる。かっこ悪くて気持ち悪い暴走の果てにズタボロになる様を見せつけられるんだ…

岡崎、イイ子なのに。もういつ彼の転落が始まるのかハラハラして吐きそう。見たくない、でも気になる…結局夢中でページをめくってしまう。

 

意外に持ちこたえる

しかし、この岡崎君は意外と持ちこたえる。彼は割と素直で、すぐには道を踏み外さない。周りの人にも恵まれている。

・パシられた時に、買い出しを手伝ってくれたり体調を気遣ってくれる友達がいる。

・家族がイイ。割と明るく健全な感じ。

・吸血鬼状態で暴走した際、奇跡的に受け止めてくれる女の子(雪子)と出会う。

・自分をパシッていたリア充軍団をそこまで本気で恨んでいない。

特にこの雪子の存在は大きそう。惡の華の時は、もう佐伯に転んでも仲村に転んでも苦しい感じだったけど、この子は今のところ安定感ある(屋上で一人でご飯食べているあたり、何か抱えているのだろうけど…)。

ちなみにもう一人、メインとなりそうな女キャラとして、菜緒という黒髪ロングのマドンナ的存在もいるのだけれど、どう見ても破滅ルート。お前はダメだ!!

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押見修造.ハピネス.1巻.第3話「葛藤」より.:マドンナの菜緒に比べて地味顔の雪子と空、本来の誠の不器用そうな笑顔。束の間の穏やかなシーン。

全く油断できないけれど

こんな感じで、読み終わったときは、ああまだここで留まるかと安堵の溜息をついてしまった…。誠の健全さがありがたい。でもまったく安心できない。あげて落とすのが常套。まだ吸血鬼女についても何も語られていない。

何事もなく冴えない学生生活を終えたであろう純朴少年を、吸血鬼という仕掛けでもって、経血と暴力という青春暴走要素に無理やり巻き込んでいく。転げ落ちていくのではなく、留まって逃げ切って欲しいような、いつも通り容赦なくやっちゃって欲しいような…。怖いもの見たさの作品。とにかく先が気になる。

 

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