漫画のメモ帳

早口で漫画について話すブログ

2020年思わずとウーっと唸った漫画のセリフ6つ

ここ1,2年くらいで発表された新しめの漫画のなかで、2020年、読んでいて一気にわっと感情が高まったセリフを6つ選んでみました。そのセリフやモノローグ単体による「瞬間最大風速」の大きさ重視の選び方です(もちろん挙げたものはすべて作品全体としても大好きなものですが)。

唸ってしまうような言い回しであったり、その鮮烈さに思わず目を閉じてしまうような演出であったり。漫画を閉じても何度も心の中で反芻してしまうような、そんな大好きなシーンたちです。こういう瞬間に出会えるから漫画を読むのはやめられません。 
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「女の子がいけるクチかどうかはわからないんですが あなたはすごくステキなひとだと思います」
志村貴子.おとなになっても.第1巻第1話.P23より
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本作は志村貴子氏が描く大人の女性同士の恋愛物語。これはこの表紙の右側の女性(綾乃)のセリフなんですが、第一話のこのセリフに完全にやられてしまいました。
同性愛者である事を自覚し積極的にアプローチをかけるのは左側の黒髪の女性(朱里)なのですが、それに対する彼女の受け答えや行動がもう「プロの大人」って感じ。真面目そうな身なりに、上品で丁寧でな自然な言葉と行動。綾乃の魅力を説明するわざとらしい描写なんて一切ありません。なのにいつの間にか「えっ、そんな、あれっ」という感じであれよあれよと彼女のペースでコトが進んでいきます。
フラットで飾り気ないのに色気が満ちている感じ。志村さんの作風全体にもそんな印象を持っているのですが、それが凝縮されたようなセリフだなーと思います。
 
「もし神様を倒せたら いっしょに卒業しようね」
― 戸塚慶文.アンデッドアンラック.第4巻第1話.P23より

アンデッドアンラック 4 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ジャンプの作品。絵柄や能力バトル設定などはまさに少年誌といった感じなのですが、人間関係やドラマの描き方はその外見以上にウェットな印象の作品です。
このセリフは、夜の学校で戦いを決意した少年から何も事情を知らない友人に向けられたもの。「神様を殺す」「夜の学校」「友達」「こちらとあちら」「約束」「別れ」といったグッとくる要素で構成される最高の演出。切なさと、少年の決意と、未来への少しの希望を感じさせる、少年マンガらしい魅力がたくさん詰まった場面です。

「初めまして!よろしくね!」
― ゆうち巳くみ.友達として大好き.第1巻第7話「初めまして」.P220より

友達として大好き(1) (アフタヌーンコミックス)

天然ビッチで少し浮いている女子高生と、生真面目で人気者の生徒会長。二人の出会いにより、二人の世界がどんどん広がっていく物語。単純な二人だけの恋物語では全くありません。どこかで見たような設定なのに、今まで見たことのないような純真で真摯な人間関係の始まりたちが描かれていて、もう読んでて常に心が揺さぶられます。
このセリフも全くひねりもない挨拶なのですが…ビジネスメールの文末に取りあえず付けられるような擦り切れた「よろしく」とは全く異なる、この上なくキラキラした「よろしくね」なんです。
私はあなたと仲良くしたいです、そして、あなたもそう思ってくれると嬉しい。そんな人と人との関わりの中で、最も素直で真摯な願いが込められた最高の一言が、眩しいイラストとともに表現されています。ちょっと祈りのようでもあるなと思ってしまうくらい、まばゆいシーンなのです。
この場面はちょうど1巻のラストの話にあるのですが、それが「初めまして」というタイトルなのも構成が見事すぎてしびれます。たとえここで物語が終わったとしても、最高のお話になる完璧な1巻です。そして、幸いにもここで物語は終わらず、毎月最高を届け続けてくれています。絶対もっと話題になって欲しい漫画です。
 
「…俺ェ、ガキなんていらねえんだけどな…」
乃木坂太郎.夏目アラタの結婚.第2巻第15話「可能性」.P8より

夏目アラタの結婚(1) (ビッグコミックス)

児童相談所職員の夏目アラタが、ある子供の依頼をきっかけに、連続殺人で死刑囚となった品川真珠の真実を探る物語。
アラタは読者サイドの立場で真珠という深い闇に立ち向かう構図なのですが、ここの彼のセリフや光の失せた目の描写には思わず「えっ」となりました。狂気と謎に満ちた真珠に対峙する存在として、読者よりの立ち位置だったはずだった主人公の突然の豹変。真珠もこれには驚き、また大いに喜びます。別に子供はいらないというのは普通の意見ですが、それを吐く彼の様子が尋常ではないのです。こういうガラッと構図が変わる瞬間、良いですね。
サイコ・天才キャラがその漫画のメインにいるとき、その他の人物は引き立て役として翻弄される凡人として描かれることが多いのですが、この漫画はそんな短絡的な作りにはなっていません。例えば裁判のシーンでは、多くの聴衆は真珠に騙されるのですが、百戦錬磨の裁判官は表面上は聴衆と同じ態度を見せつつ、しっかり彼女の本性に気づいていたりします。キャラ一人一人に、過去と妥当な知性と意思が備わっているのです。
そうした深みのあるキャラ達が織りなす会話や駆け引きのドラマはスリルとエンタメに満ちていて、読んでると脳がじゅわーっとなるくらい面白いです。
 
「自分が思ったよりだいぶ早く 望んだ以上に完璧な ”ひとりぼっち”をわたしはこの日手に入れた」
渡辺ペコ.1122.第7巻第41話.P152より

1122(7) (モーニングコミックス)

セックスレスをきっかけに、夫の不倫を公認とした夫婦の物語。
本心からの軽率な言動が関係を崩し、いつの間にか本心を出せなくなり関係を拗らせた二人。「まぁそんなこともあるかもね」という感じの何気ない選択肢の積み重ねによって、「あれこんなはずでは」というところへコロコロ落ち続けた物語ですが、このシーンを雑誌で見た瞬間はそのヘビーさに思わず天を仰いでしまいました。
べつに一人になっても問題ないと思うこともあるけれど、そう思うことができるのは、結局、その一人というのが何かしらの「基盤」や「ホーム」のようなものの上に成り立っているものだからということを、容赦なく突きつけられた気がしました。何が自分に必要なのか?それを得るため・与えるために、自分は何をするべきだったのか?そうした問いはこれまでの物語からも感じられたはずなのに、ここにきてようやく身につまされる。ガツンと頭を殴られる。そんな瞬間でした。
夫が心の中で不倫を正当化する場面なんかケタケタ笑っていたのですが、それももはや懐かしいと思わされるくらい、この上なくシリアスで重みのあるシーンでした。
 
「君を助けたい君を守りたい何もかもから でもわたし痛かった… 痛かったの…」
椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第7巻第34話四ツ首様⑩.P91~93より

青野くんに触りたいから死にたい(7) (アフタヌーンコミックス)

付き合って1週間で死んで幽霊になってしまった青野君と、その彼女・優里ちゃんの物語。切ない話と思わせつつ、その不器用で不憫な様子で笑わせてきたかと思えば、かなり不気味なホラーシーンや民話を突っ込んできたり。そのようにくるくると表情を変えてきた物語ですが、話が進むにつれ根幹にあるのが彼らの「痛み」であることが明らかになってきます。

花で飾られた、あり得るはずのなかった幸せな世界から逃げ出した優里。走り、立ち止まり、また走る優里の様子が5ページにわたって描かれるシーン。この一連のセリフはもっと長いのですが、私は優里がようやく自分の痛さを認めたここの部分がもう切なくて仕方がありません。

自分も痛みをかかえているくせに、さらに痛めつけられながらも青野君を救おうとしていた優里。彼女はこれから自分を傷つけるものと対峙することができるはずで、それは歓迎されるべきことのはずなのですが、それは痛みで繋がっていた青野君との別れも意味することになりそうです。それまでの甘い甘い生活の様子がかなりリアルなだけに、それと現実との差が激しすぎて悲しい。現実の苦痛を認めた彼女にも、どうしても彼女を傷つけてしまう青野君にも、どうか救いがあるようにと願わずにはいられません。

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以上昨年の振り返りでした。他にもいろいろあるのですが全部は書き切れなさそうです。
今年もたくさんの素敵なシーンに出会えるといいなと思います。
 
 
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