漫画のメモ帳

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ハピネス/押見修造(1巻【以下続刊】) 危うくて危うくてはきそう

ハピネス(1)

押見修造の作風は確かに好みのはずなのに、なんだか気軽に手が出せない。私が読んだことがあるのは、近年の「惡の花」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「ぼくは麻理のなか」の3作品だけだが、どれも「カースト下位的青少年」特有の惨めで恥ずかしくて目も当てられないような展開がこれでもかと描かれていて、苦しい。

青春のトラウマスイッチを押しまくるようないたたまれない状況を、どうしてこんなに的確に描けるのだろう。何かがうまくいかなくて、ゴロゴロと転げ落ちていく。読んでて心がゴリゴリ削られる。

そしてこの新作の「ハピネス」も、もう精神が削られる予感バリバリの作品。

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主人公は岡崎誠という高校生。彼はクラスの冴えない組に属していて、昼休みはいつもクラスのカースト上位的なヤツらにパシリにされている。でもよく見ると整った顔をしていて、イケテない割にちょっと雰囲気がある。幼少時代もカワイイ少年として描かれていて、幼気な感じも残っている。惡の華の高男を彷彿とさせるキャラ。

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押見修造.ハピネス.1巻.第1話「ノラ」より.:おばさんからみれば「カワイイ少年」の誠。うっかり何かの拍子で身に余る「モテ」を掴んでしまいそうな…でもそんな好機をうまく扱う器用さもなく、持て余して、破滅へと走りだしてしまいそうな…絶妙な危ういビジュアル。

そんな彼はある日、夜の街歩いていたところを人間離れした運動神経を持つ少女に襲われてしまう(表紙の彼女)。押し倒され、首から血を吸われ…そして世に流布する吸血鬼物語の通り、彼自身も血が欲しくて欲しくてしょうがない怪物になってしまう。ああ不幸。

 

そうだ、血といえば…

血に敏感になってしまう岡崎。そして、そんな彼が学校に来て一番に反応するのは、女子生徒の経血……

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押見修造.ハピネス.1巻.第2話「血のにおい」より.:目が座っている…視線の先はスカートの中。アウト。

もうこれだけで青春の破滅が目に見えてる…。そういや東京喰種とかの時にはあまり深く考えなかったけれど、身の回りで一番血を纏っているのは生理中の女だ。カッコイイ吸血鬼モノや人喰いモノで、女の股ぐらに悲劇の主人公が突っ込む様は見たことが無いし、今後も見たくもないけれど…押見修造ならやりかねない。というか100パーセントやる。かっこ悪くて気持ち悪い暴走の果てにズタボロになる様を見せつけられるんだ…

岡崎、イイ子なのに。もういつ彼の転落が始まるのかハラハラして吐きそう。見たくない、でも気になる…結局夢中でページをめくってしまう。

 

意外に持ちこたえる

しかし、この岡崎君は意外と持ちこたえる。彼は割と素直で、すぐには道を踏み外さない。周りの人にも恵まれている。

・パシられた時に、買い出しを手伝ってくれたり体調を気遣ってくれる友達がいる。

・家族がイイ。割と明るく健全な感じ。

・吸血鬼状態で暴走した際、奇跡的に受け止めてくれる女の子(雪子)と出会う。

・自分をパシッていたリア充軍団をそこまで本気で恨んでいない。

特にこの雪子の存在は大きそう。惡の華の時は、もう佐伯に転んでも仲村に転んでも苦しい感じだったけど、この子は今のところ安定感ある(屋上で一人でご飯食べているあたり、何か抱えているのだろうけど…)。

ちなみにもう一人、メインとなりそうな女キャラとして、菜緒という黒髪ロングのマドンナ的存在もいるのだけれど、どう見ても破滅ルート。お前はダメだ!!

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押見修造.ハピネス.1巻.第3話「葛藤」より.:マドンナの菜緒に比べて地味顔の雪子と空、本来の誠の不器用そうな笑顔。束の間の穏やかなシーン。

全く油断できないけれど

こんな感じで、読み終わったときは、ああまだここで留まるかと安堵の溜息をついてしまった…。誠の健全さがありがたい。でもまったく安心できない。あげて落とすのが常套。まだ吸血鬼女についても何も語られていない。

何事もなく冴えない学生生活を終えたであろう純朴少年を、吸血鬼という仕掛けでもって、経血と暴力という青春暴走要素に無理やり巻き込んでいく。転げ落ちていくのではなく、留まって逃げ切って欲しいような、いつも通り容赦なくやっちゃって欲しいような…。怖いもの見たさの作品。とにかく先が気になる。

 

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