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春原書留所

普通の会社員が書く漫画アニメの感想・解説ブログ。基本完全ネタばれです。安月給なのに漫画買いすぎて毎月金欠。

懲役339年/伊勢ともか(全4巻【完結】) ラスト4ページは映画のエンドロールのよう

漫画 ★★★★

懲役339年(1) (少年サンデーコミックス)

裏サンデーの連載作品。今(2015年8月)でも1部、2部と、最新話のエピローグがウェブ上で読めるよう。

第1話を読んだ時はこんな清々しい読後感を得られると思ってませんでした…最後まで読んで本当によかった。

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中世ヨーロッパ風の世界、ここでは「前世」の存在が信じられており、社会制度にまで影響を与えている。国民の前世は役所で認定・管理され、前世で地位の高かったものは現世においても高い地位に就くことが約束されている。そして、このように「徳」が引き継がれるのと同じように、「罪」も引き継がれる…犯罪者の残した懲役も、次の生まれ変わりの人間が引き受けるのだ。そんな世界で大罪を犯した「ハロー・アヒンサー」。彼は339年という途方もない懲役刑をくらい、当然その刑期を全うすることなく死ぬ。そして、彼の罪を引き受けた少年「2代目ハロー」と、ある看守の出会いから物語は始まる。

想像以上の読後感

正直こんなに感動的な余韻が得られるとは思ってなかった…。いかんせん最初の方は絵が固く拙い(偉そうにすみません)。重みのある内容であるにもかかわらず、特に人物の絵がそれに追いついてきていないから、最初のほうはなんだかちぐはぐな印象。

絵を補って余りある演出と構成

それでもコミックスを買い続けたのは、ふとした瞬間に差し込まれる風景や小物の画面のセンスが良くて、「大犯罪者ハロー 残り懲役○○年」のナレーションのタイミングがかっこよく、そしてなにより全体の構成にぐいぐい惹きつけられたから。339年の懲役を消化していくわけで、当然、一人二人の生まれ変わりではお話は終わらない。何人もの「ハロー」の積み重ねから成る339年の物語。

最初の「2代目ハロー」の話は、40ページ弱で語られる一人の少年の物語。彼は、何が罪なのか、自分が一体何なのかも知らず、ただ刑務所の中でひたむきに生き続ける。少年の生に、「前世」という制度の虚しさが浮かび上がる。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第1部より.:言葉も理解せず、罪について考えることも答えることもできない。

 次の「3代目ハロー」の話も、ページ数自体はそれほど多くない。このハローは、先代のハローと違い、体躯、人格ともに立派に育った青年。彼は、考えることができる。自分の罪は何なのか、生きる意味は何なのか。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第2部より.:他の囚人と比べても引けをとらない体格。利発で、分別のある模範囚的存在。

そして、これら2代のハローを見つめた看守が一人いる。彼は、この2人のハローの生き様を目の当たりにしたことで「前世」について疑問を持ち始める。そして、その懐疑は、4代目ハローとその看守に引き継がれ、それはこの世界に変革をもたらす一石となる。

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伊勢ともか.懲役339年.1巻.第3部第1話より.:4代目ハローは普通のカワイイ女の子。そして看守。運命の二人。

 2代目、3代目ハローの存在はどこか儚く、その話も1つの静かなオムニバスとしてまとまっている。それに対し、徐々に話が転がり始める4代目の話は100ページ弱。その次の5代目の話はさらにボリュームがある。最初は「前世」に縛られ、監獄の中で生を全うするだけの存在であったハローが、代を重ねるにつれて人との関わりを増やし、やがて大きな革命を成していく。

2代目のハローが種をまき、3代目がそれをあたため、4代目で芽を吹き、さらにその先のハロー達が大樹に育てる…そのように流れが大きくなっていく様が、4巻という少ない巻数のなかで話数配分も見事に作られている(絵も最後の方はかなり変わって柔らかく素敵な感じに…)。

ラスト4ページは映画のエンドロールのよう

ラストはやはり339年後。現代の大学生によって、これら「前世」が信じられていた世界の物語が、とある小国のお話であったことが語られる。

人物の風貌や、「前世」というアイテムのために、何となくファンタジー物語のように感じていたのだけれど、この現代人の演出でそれが一気に私たちの世界に引き寄せられた感じ。物語が「ファンタジー」ではなく、「どこかであったかもしれない歴史」になり、現代と地続きになることでグッと重みを増したよう。

そして、ラスト4ページ。キャラの最後の表情から、いったん引きの風景画面になり、そして最後に339年の完了が告げられる…途方もない時間の流れの感慨深さが4ページに集約されている。夜空がキラキラしていてすごくきれい。文句無しの演出。そして表紙。最後に見返すと、背を向けているハロー達がそれぞれどんな表情でいるのかをこちらに想像させて、少し切なくなる。

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勢いを落とさず右肩上がりで、ラストはとてもとても高いところに着地した感じ。読み続けてよかった。

 

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