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封神演義/藤崎竜(第2部【全23巻完結済】) 哪吒・楊戩きた!仲間をおちょくっているときが一番太公望らしい

封神演義 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)

今更語る封神演義第2巻。1巻感想はこちら。

この巻の目玉は哪吒・楊戩の登場。今後、哪吒は切り込み隊長として、楊戩は右腕参謀として、その最後まで太公望を支える。行動を共にするのはもう少し後になってからだが、やはり仲間と一緒にいるのはいい。太公望は「リーダー」だから、仲間といるときは一段上の視点から飄々とした感じの振る舞い。いいねこの感じ、太公望っぽい。

羌族は助けられなかった。エグイ…作中で一二を争うエグさ。

「あわや羌族たちの命運やいかに」という前巻の引きだったが、1ページ目でもう処刑が始まってしまう…。初読の時は、太公望が知略でうまく乗り切るのかな…とか思っていたが、そんな期待は1ページで消えてしまった。

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藤崎竜.封神演義.2巻.第8回「序章の終わり」より.:蛇の絵の生々しさもあってかなりエグイ。これ、今のジャンプでもOKなのかしら…悪夢そのものの結末。

単騎で妲己に挑もうとした結果がこれ。もちろん、大人しくしていればよかったという話ではないけれど、敵の力量を見誤ったが故の悲惨なオチ。後にも先にも、これ以上の失敗はない。一族を失ったことに誰より傷ついている彼が、一族が蛇に食われるという結末を自ら運んできてしまうなんて。この失敗があるから、彼はさらにやさしく思慮深く必死になるのだけれど、それでもこれはきつい。

しかし立ち直りも早い。

いや、「立ち直って」などいないのかもしれないが…ひとまず、惨事の割にうじうじする描写はあまり多くない。武成王「俺ァ お前を助けたんじゃねぇよ!世の中のために生かしておいたんだ」「まだ生きろ!甘えは許さねぇぜ!」申公豹「次からはこんな無様なことは私が許しませんからね」こうしたややツンデレの入った二人の助けもあり、太公望は覚悟を決め歩みを進める。

羌族処刑から再出立まで1話の中の出来事。この作品のこういうところが好き。「苦悩」の描写をやりすぎない。もちろん、太公望の心中は穏やかではない。でもまず足だけでも進める。話のテンポがいいし、これから国対国の戦いを率いるものとして、止まっていることができない厳しさが分かる。個人の苦しみを詳細に描くのではなくて、それに甘んじていられない、もっと大きな流れがあるのを描いていると思う。太公望に限らず、武成王、姫昌、姫発、聞仲、殷の2太子、紂王…なんて人々も、ままならない流れの中で戦う強い人々の象徴な気がする。

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藤崎竜.封神演義.2巻.第8回「序章の終わり」より.:真暗な太公望とスープー。遠くの光。象徴的な一コマ。改めて読むと、人物はあまり大げさに嬉しい悲しい言わない代わりに、風景描写は結構リリカルな印象。

哪吒きた!

そして第1の仲間…!哪吒みたいな火力最大系キャラはわくわくしちゃうね。力はすごいけれど、頭はあまりよくない…ということで太公望に軽くいなされる。太公望に負けたのち、一度仙人界に帰って修行し直し。

しかし今見ると、哪吒は別に頭悪いわけじゃない印象。自分の過失で霊獣の怒りを買った際の「母上……この肉体お返しします」という判断や言葉、父親が自分を嫌っていることに対して「無理もない」、そして「オレは何なのだ」という問い。宝貝人間としての自分や、両親との関係をしっかり認識し、疑問をもっている。十分聡い。そして、こうした疑問があるから、先のVS趙公明における宝貝人間対決「人間の証明」のエピソードがいきてくる。また、太乙もここで登場。親子と師弟、なんだかんだで哪吒は愛されている。どっかで誰かが崑崙の千人は弟子を甘やかすといっていたけれど、いいと思う。情があってなんぼ。

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藤崎竜.封神演義.2巻.第12回「哪吒編・まとめ」より.:遠い目で自己を問う彼からはロボットとか無機質とかそんな印象は感じられない。この問いの解を得るのは、かなり後の「人間の証明」にて。

楊戩も来た!

これから先、楊戩は戦略的にも精神的にも太公望の支えになる場面があるから、何となく彼が最初の仲間だって思い込んでいた。2番手だったのか。長髪美形の天才、変化が得意技。哪吒といい華やかだなぁ。しかし見どころはなんといってもノリノリの妲己の女装…

結局彼も太公望を試しているつもりが逆に利用されてしまう。というか、今見るとその場の思いつきで「無力な民を西に逃がすのが太公望を試すための試験」とか結構ひどい。民にとっては死活問題なのに。そのうえ無力呼ばわり。太公望ブチ切れなのもよくわかるww

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藤崎竜.封神演義.2巻.第15回「TEST・終了」より.:ごらんのとおり、美形。やや嫌味。これから彼は色々といい意味で変わっていく。哪吒は1話から彼の内面に入り込むエピソードがあったけれど、楊戩の描写はまだまだこれから。

そして妲己の酒池肉林

妲己の残酷描写その3。本当に酒の池を作り、人肉飛び交う林を作る…酒池肉林ってそういうことじゃないよねえ…。そしてとうとう臣下の四大諸侯に手をかける妲己。相変わらず阿呆丸出しの紂王。

力をつけてきた諸侯の力を削ぐため…というのが姫昌の読み。しかし、いまから見るとわかるが、むしろ狙いは逆。「あのヒトにはまだやってもらうことがあるのだから」とは妲己の言葉。西岐に殷を滅ぼさせるためのきっかけ作りだった。つくづく色々と初めから織り込まれている漫画なんだなぁ。

今見ると面白いところ

・「おめーの服ににて作らせた」:針子すげーーー!

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藤崎竜.封神演義.2巻.第8回「序章の終わり」より.:この難解な服を見本もなく作るなんて…

・スープー:今見てもやっぱりマキバオー。編集者の嶋氏つながり?

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藤崎竜.封神演義.2巻.第13回「玉泉山金霞洞玉鼎真人門下・楊戩登場 !!」より.

・歴史の道標:妲己が朝歌にいないことに気づいた黒点虎が、申公豹に問う「じゃあ本物(の妲己)はどこにいるの?」申公豹「おそらくあれの所に行っているのでしょうね 妲己の背後でうごめく巨大な流れのところへ……」「今はあれを”歴史の道標”とでも言っておきましょう」ここですでに登場するラスボスの名前。

この会話の後、すぐに太公望妲己(実は楊戩の変化)のシーンがくるものだから、完全に太公望が道標…的なミスリードを誘う書き方。しかし、だれが道標の正体が宇宙人だなんて思うだろう。

妲己は狂っている:言わずもがな、封神問題シーンベスト3には入るだろう。かわいいんだけどさぁ…

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藤崎竜.封神演義.2巻.第9回「宝貝人間・哪吒登場 」より.:恍惚とした表情、ポーズ、臓器、もう誰も止められない感じ…ボスとしてふさわしい演出…。初読のときからかなりインパクトのあるコマ。

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2巻はここまで。妲己の大物感と、太公望の飄々とした感じが出てきていい。そして、西岐対殷の構図も意識されだしてきた、徐々に加速していく感じがやはりうまいなぁ。

 

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