漫画のメモ帳

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青野くんに触りたいから死にたい(1~3巻【以下続刊】) / 椎名うみ 今ダントツで面白い漫画

青野くんに触りたいから死にたい(1) (アフタヌーンコミックス)

青野くんに触りたいから死にたい

なかなか刺激的でキャッチ―なタイトルだけど、内容もそれに全く負けていない。ただの切ない恋愛だけではない。メンヘラ系女子の葛藤だけでもない。滑稽さ、必死さ、悲しさ、そして恐怖がギュッと詰まっていて、読んでて脳がジーンとしてくる面白さ。

偶然、第1話と第2話が掲載されたアフタヌーンを読んだのだけどもう一瞬で虜です。今一番続刊が楽しみな漫画。

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主人公の優里はさえない女の子。人との付き合いが上手くなく学校でも浮いてる。別のクラスの青野くんを好きになるのだが、そのきっかけも、廊下でぶつかって一言二言かわしたことだけ。でもそれが男の子との初めての会話で、頭の中はもう青野くんでいっぱい。見た目のピュアさもあいまって、ちょっとイタい女の子だ。

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椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第1巻.第1話「初めての彼氏」.p8より.:青野くんのことで頭がいっぱいの優里。黒髪の真面目な印象の女の子。体育ので二人組を組む友達がいなくても気にしないくらい青野くんのことを考えている。思い込んだら止まらない。つよい。

そんな人との距離感がつかめない優里ちゃんなので、いきなり青野くんに告白してしまう。でも結果はまさかのOK。青野くんもなかなか不思議で豪気な人物のよう。そうして、めでたく二人は付き合うようになるのだが…

ある日突然、青野くんは交通事故で死んでしまう。絶望する優里。自分が生きていてもしょうがない。そして手首にカッターをあてて青野君に会いに行こうとしたとき、青野くんが幽霊となって彼女の目の前に現れる。

こうして、優里と幽霊の青野くんとのお付き合いが始まる。

 

幽霊の彼氏とのおつきあい。大真面目だけど滑稽で痛々しい

青野くんはものに触れることができない。青野くんは優里ちゃん以外の人からは姿が見えない。そんな制約の中で、二人は学校や家で共に彼氏彼女の時間を過ごすことになる。

このお付き合いの様子がもうおかしくて痛々しくてなんとも言えない。例えば、青野くんに触れられないと悲しむ優里ちゃんに、青野くんは、枕に自分を重ねて枕ごと自分を抱けばいいと提案する。

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椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第1巻.第1話「初めての彼氏」.p30より.:読んでるこっちも「え……?」となるわ。枕と自分をかさねる青野くん。なんて絵面。ちょっといい笑顔なのもシュール。こんな笑いが散りばめられている。

本人たちはいたって真面目だけどシュール。この枕を抱いた優里ちゃんは「わたしの匂いだ」といって大泣きするんですよね。好きな人が死んだら悲しいよね、初めてのハグが自分の匂いしかしなかったらやりきれない。でも傍から見たらとてもまぬけ。

他にも、優里と一緒にピアノを弾くシーンや、何気ない言葉の掛け合いがとっても良い。枕のお話のようにちょいちょい笑わせてくる。優里も人並みに性欲もあるから変な方向に暴走することもある。本人たちはもう必死。でもうまくいかない。

初めての彼氏が大好きで、嬉しくて、一生懸命で、でも幽霊で。恋愛ってたしかに傍から見たら滑稽な部分があるけれど、それにしてもシュール。笑えない状況なのに笑わせてくる。

 

物語の面白さを邪魔するノイズがない

人付き合いがうまくできない登場人物は世間から攻撃されがちだから、優里もどこかで周囲から変な目で見られたり、責められたりする展開があるのかな、と思ってしまう。あとは優里の妄想オチで彼女がひどく傷ついたりとか。でも、そんなことは無かった。

むしろ、ちょっと優しくしてくれる同級生がいたり、青野くんを助けようとする仲間が出来たりする。安直に居心地の悪い展開が挿入されることは無い。優里ちゃんは、きっと現実の人でもそうするように、幽霊の存在についてわざわざ騒ぎ立てたりはしない。周囲とうまく折り合いをつけることはテーマになっていないから、外野のヤジも少ない。

恋をしている優里は必死で、他のものが入り込む余地はない。

そんな優里ちゃんに仲間ができて救われる。さりげなく優しいモブキャラの存在もうれしい。幽霊の青野くんとの会話も面白い。初恋に必死な様子も、うまくできない滑稽さも好き。

面白さを邪魔するものも何もない。そして、そんな優里ちゃんの青野くんへの想いや必死さに、幽霊の謎や不気味さが絡んできて、いよいよ物語は走り出す。

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椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第2巻.第8話「脱衣」.p81より.:優里と、青野くん救済という目的で仲間になった二人。青野くんが左の藤本くんに憑依した際、優里と彼はキスをしてしまう。性欲を隠さない優里とうろたえる藤本くん…災難。

 

不穏な描写のうまいこと…

この漫画は、分類するとすればおそらく「ホラー・スリラー」になる。優里ちゃんが、思いつきで青野くんを自分に憑依させようとしたことをきっかけに、いつものやさしい青野くんの様子がガラリと変わり、まるで別人のようになってしまう。そして憑依を許可したとき、青野くんは優里の体に入り込み、優里はどこか別の世界に迷い込む。

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椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第1巻.第4話「もう一人の青野くん」.p137より.:青野くんの表情。顔を半分隠している。花と、表情と、逆光と、不気味な余白…良い…。この次のページもびくっとなる。ちなみに青野くんと外で会話するとき、優里は携帯で「赤川くん」と喋っている風にカモフラージュしている。たしかに、実際に幽霊がいても、多分普通には人前で話さないだろう。こういところがしっかりしてるのもいい。

この「様子が違うもう一人の青野くん」の表情。いきなり出てくるものだから、本当にぞくっとしてしまう。「別の世界」の不穏さもなかなか。街の電柱に×が描かれている描写とか、ストッキングをはいた女の足が隠れる優里を探しに来る流れとか。

なんでこんなに不安定な雰囲気をだせるのだろう。健全で、ちょっと拙い感じ残る絵柄のせいかもしれない。怖い。

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椎名うみ.青野くんに触りたいから死にたい.第2巻.第10話「嘘つき」.p161より.:「別の世界」で、机の下に隠れる優里に気づきそうな女。机の下をのぞきこもうとだらっと髪垂れる髪、ペディキュアの爪、ストッキングの線。顔は見えない。やばいやばい。怖いよー。

この「もう一人の青野くん」はいったい何なのか。優里ちゃんが憑依されたときに見る世界はいったい何なのだろうか。そこに出てくる女は誰。青野くんの過去との関係は。そして、青野くんを「助ける」にはどうすればいいのか。

3巻までで、謎は未だ解明されていない。

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不穏な展開の数々に、次は?次は?と気になってしまう。普通の人々や世界と紙一重で存在する、普通でない世界や人々の描写にギクッとする。

恋愛の楽しさ、悲しさ、必死さと、仲間の暖かさと、ギャグと、謎と、恐怖。色々な面白さがギュッとつまってて本当に面白い。人の内面、言動、行動、そしてそれを取り巻く世界のどれもが魅力的だと思う。

一巻一巻がとても短く感じる。次巻もとっても楽しみ。

 

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