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花とアリス殺人事件(単巻【完結】)/道満晴明(原作:岩井俊二) 作者と出版社にも良心があった!!ナイスバランスなコミカライズ

花とアリス殺人事件 (ビッグコミックス)

漫画を読んでいると、台詞回しや演出に「すごい!」と拍手したくなるシーンに出逢うことがあるのだけれど、道満作品ではそれが連発されている。もう、この方は普段どんなことを考えて生きているのだろうと感心するくらい、下品で軽薄で機知に富んだ言葉選びと力の抜けたテンション。絵はしゅっとしていてスタイリッシュ。

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道満晴明.ぱら★いぞ.1巻第9話より:もう何も言うまい…これでも全然上品。

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今回読んだのは「花とアリス殺人事件」。岩井俊二の実写映画作品「花とアリス」の前綺譚であるアニメ映画「花とアリス殺人事件」のコミカライズ。

花とアリスは実写もアニメも大好き。透明感があって、常に薄い光に包まれているような雰囲気。女子高生の恋と友情。初冬の空気、夜明けの街。心の機微とその風景がとても綺麗。ストリングスの凛として伸びやかな音楽も作品にすごく合ってる。主演は実写もアニメ版も鈴木杏蒼井優

こんな清らかで透き通った世界が、コミカライズされたというのでさっそく飛びつく。おおっ、だれが描くのかなと思ったら、まさかの道満晴明。えっマジかよ。大丈夫?

 

アニメ「花とアリス殺人事件」

親の離婚で石ノ森学園中学に転校してきた有栖川徹子。彼女が所属することになった3年2組では、一年前に殺人事件があったという…被害者は「ユダ」、そして容疑者は「4人のユダ」。有栖は、たまたま座った席がかつての「ユダ」の席だったことから、図らずもこの事件に振り回され、真相について調べる羽目に。やがて彼女は、殺人事件以来不登校になってしまった荒井花という女子生徒の存在にたどり着く。花曰く「ユダは生きている かもしれない」。そして、有栖と花はユダの生死を確かめる旅に出る…

 「殺人事件」と冠してあるものの、内容はほのぼの。青春の日常と、そこに紛れ込むちょっと非日常的な呪いや噂と秘密。トラブルメーカーの花・巻き込まれ体質の有栖にの二人によって、コロコロ話が転がっていく。全編ロトスコープで描かれていて、実写の岩井映画の雰囲気がそのままある。

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私が特にいいなぁと思ったのは、有栖が見知らぬおじいさんと長い散歩をするシークエンス。間抜けな出会いと不思議なテンポの会話。やがてじんわりと表れるおじいさんと有栖の優しさ。いつもの日常とはちょっと違う状況での穏やかなふれあい。素敵。

オカルト要素と不思議なキャラ達と軽妙なギャグ

 で、漫画版。「おじいさんと女子中学生がお散歩」なんて、下ネタをブチ込む余地ありまくりだなぁとか思っていたのですが…。下ネタはほぼほぼ無かった。そして読後感が岩井映画のそれと同じくらい爽やかだった。

アニメをそのままコミカライズしたのではなく、描き手の解釈の元ストーリーが改変されている。最も大きな違いは、アリスと花が「ユダ」を探す旅には出ないこと(なのでおじいさんとの散歩のシーン等もない)。映画ではさらっと触れるだけだった、殺人事件容疑者の「四人のユダ」の謎に迫ることで、事件の真実にたどり着く構成になっている。

こうした学園の呪いや謎解きオカルトな要素って、すごく作者の作風に合っていると思う。かなり非日常的なことが起きているのにさらっと流しちゃったり、トリッキーなキャラがたくさん登場したり。あれよあれよと場面が変わる感じもアニメ版に近いと思った。うまいこと著者の得意とする要素を強調して再構成されてる感じ。

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漫画:道満晴明.原作:岩井俊二.花とアリス殺人事件.第6話より:「4人のユダ」に会いに、奇術部へ来る話。下半身だけ歩いてるって…部活のレベルじゃないぞ。しかも漏らしてるし。こういうの、すっごい道満っぽい。

青春な友情モノもイケるのか

読んでいる最中はアニメとは別物になったなぁという印象だったけど、ラストは存外に爽やかで「花とアリス」らしい雰囲気があった。花の青い悩みと、それを救うアリスとの友情といった、ストーリーの肝となる部分がしっかりそのまま残っていた。というか、アリスが花に手を差し伸べる様子がけっこうストレートに描かれていて少し驚いた。今まで、この作者の作品であまり見なかった感じ。素直な友情展開、素敵。

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漫画:道満晴明.原作:岩井俊二.花とアリス殺人事件.第5話より:花の懐に飛び込むアリス。特に花の表情とかが鈴木杏そっくり。アリスがよんでいる漫画のレーベルが「花とアレ」だったり、色々と小ネタもたくさん。

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もう、本当下ネタだらけだったらどうしよう…とか思って手に取った漫画だったけど、思いのほか青春しててよかった~。ほのぼのとした中に、作者独特のギャグや非日常感がちょいちょい顔をだしててイイ感じ。花とアリスも、道満晴明も好きな私にとっては大変満足なコミカライズでした。

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