漫画のメモ帳

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コングレス未来学会議/監督:アリ・フォルマン 幻想の後ろで置き去りにされた自分と真実

なんか刺激的なアニメを映画館で観たいなぁと軽く思って行った「コングレス未来学会議」…刺激的すぎ。素晴らし!

私は、今敏やデヴィッドリンチのあの幻想なんだか現実なんだかわからない世界って大好きなのですが、それと同じラインにある映画だと思う。何が幻覚?何が現実?認識=真実、願望=楽園というロジックが支配する果てのぐにゃぐにゃ絶望世界。

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2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。スクリーンでは若いままのロビンのデータが、出演を拒んできたSFアクション映画のヒロインを演じ続けた――そして20年後、文明はさらなる進歩を加速させていた。ロビンはある決意を胸に、驚愕のパラダイスと化したハリウッドに再び乗り込む。

コングレス未来学会議公式サイト.STORYより:http://www.thecongress-movie.jp/story/

※完全ネタバレの感想と思い込みの解釈、勝手な考察。とっちらかってるので長いです。長いので先にまとめをもってきます。

 ※1回見ただけなので、以下文中のセリフ等は正確なものではありません(おおよその意味はそんなに間違ってないと思います)。

 

鑑賞後の解釈・感想まとめ

・難解、頭オカシイ系といっていい類の映画。翻弄される。でも、意外と素直に面白い。アニメの縦横無尽な抽象世界へ突入する前に、実写パートでキャラクターをちゃんと説明してくれるので、全く置いてきぼりにはならない。

・息子は、この世界の誰よりも先に、薬が出回る以前から自分力での幻想世界に足を踏み入れていた。

・息子に会うため、最後に彼女が選択した幻想はだめじゃない?彼女はずっとこだわっていた「ロビン自身であること」を手放してしまったし、それは息子が望むロビンとも違う。認識したいもの、願望の選択を誤る人がいる限り、ドラッグをはじめとする強い刺激に支配されて、理想の幻を見ることが、本当に得たかったものに繋がるとは限らない。

・アニメパートのラリってる具合がすごく楽しい。綺麗です。

・ちょっとロビンに厳しすぎやしませんかね。

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余裕の前半実写パート

データスキャンによってキャラクター化された「女優ロビン・ライト」。キャラは会社の所有物となり、与えられた役に文句をつけることなく、監督の指示通りの演技をこなす。そんなの冗談じゃない、私の役は私が「選択」すると大反発するロビン本人…しかし、彼女はこれまでその「選択」を誤ってきたのだ。自分に合わない作品をドタキャンしたかと思えば、焦りからくだらない映画に出演し…そうして誰からも見向きもされなくなった。

この辺りは、先端技術の登場により不要になった役割と、それに反発する女優の悲しき人生…って感じのプチSFドラマ風。内容も難解ではなくすんなりみれる。ロビンの心情に重きが置かれているし、息子娘との日々の生活や親子愛の描写なんかもあいまって、普通にTSUTAYAの「ドラマ」のコーナーに置かれそうな内容。ここは本当に誰でも素直に楽しめる。

ちょっと雰囲気が変わる息子の診察シーン

さて、こうしたドラマな流れの中、ロビンがオファーを受けるきっかけとなった息子アーロンの診察シーンがある。ここであれっと思った部分が二つ。

1つは、アーロンの言葉。彼は飛行機が大好きで、つい先日も小さなグライダーの模型を手に入れて大喜び。そして先生に自慢げに告げるのだ。「今この模型をもとに、5メートルくらいの本物を作っているんだ」当然5メートルの飛行機製作なんて子供じゃ無理だし、そんなシーンも無い。子供の冗談として先生も流すのだが…でもこのアーロン、そんなジョークを言う感じの子じゃないんだよなぁ。彼は一体何を言っているのだろう。

もう一つの違和感は、先生の言葉。検査の結果、アーロンは言葉を正しく聞き取れないことがわかる。例えば「涙(tear)」が「恐れ(fear)」に聞こえてしまうというように、外界からの刺激を自分の中で別のモノとして認識してしまうのだ。これを見た先生は突然興奮気味に語る。「彼は自分の中では「王座」も「孤独」に変わる。彼の中で、彼独自の解釈によって世界が造られている。これは数十年も先の未来の映画技術のようだ」…いきなり、なにかに取り憑かれたかのような先生。今まで悲しき女優のSFドラマだったのに、ここだけカラーが違う。ロビンも「何言ってんの」って感じだったけど、観ているほうもそんな感じ。

女優の人生と息子の難病というヒューマンドラマ風味の流れの中に、「何か違う世界」の存在が徐々に頭を出し始め、なんだか心もとない感じになる。そして、これからが本番。

アニメパートへ…これ絶対作り手にヤク打ってる人混ざってるだろ

 ロビンがオファーを受けてから20年が経った。ロビンはミラマウント社のコングレスに赴くのだけれど…ここからついにアニメパートが始まる。待ってました!!

ロビンは、コングレス会場への道中の検問で不思議な対応をされる。「この先は、アニメ限定区域です。アニメでないと通れません」と言われ、薬を渡されるのだ。そして、その薬をロビンが吸ったのち、画面が実写からアニメに切り替わる…

風景も、ロビン自身も、すべてアニメになる。ハイウェイは虹色に波打ち、平野にはクジラや魚が泳ぐ…やばい、眩暈がするよう。音楽も実写パートと全く違う…おおもう別の映画みたいだよ。アニメパート、エッジ効きすぎ。音楽も不穏でよい。キリストもブッダマグリットのリンゴ男もいるぜ。脳内麻薬世界。見に来た甲斐があった!!

コングレス

ロビンのCGキャラ契約が切れるその前夜、彼女は新たな契約を持ちかけられる。その内容は、「ロビン・ライト」が人々に摂取される「薬」となるというものだ。…はあ?という感じだが、つまりは「薬の力で、一人一人が己の中で、見たい姿のロビン・ライトを認識できるようになる」というもの。わざわざ映画という形でロビンの情報を外から与えなくてもよくなるのだ。娯楽が、映画から薬へと変化する。

 ロビンが検問で与えられた薬はこの種のもの。自分が認識する幻想世界へトリップする薬。「アニメ通行OK」とは、「この薬を受け入れて、幻想世界の住人となったものは通行OK」という意味だった。

「実体のある人間が演じなくてもいい。データでいい。見る側は人間と思うから」というものから更に進んで「データをみせることすらしなくていい。頭の中で理想のエンターテイメントを認識できるから」という世界になったのだ。薬を吸った人間は、マリリンモンローになったり、マイケルジャクソンになったりしてる。誰でも皆、頭の中で理想のスターと自分を重ねることができる世界がやってくる。 この20年目のコングレスは、娯楽が新たな段階へ進歩し、それが世界中に広がることを表明するためのものだった。

ああ観かたを間違えた

薬を飲んだ後はもう何が「実際にあったこと」なのか「ロビンの幻想」なのかわからなくなるのだけれど…。なんとか幻想と現実の切り目を探そうと考えて観てしまったのだが、無理。少なくとも一回目じゃ無理。

劇中、ロビンの泊まるホテルが停電になったとき、こんなやり取りがある…「ロビン:ねぇ、これは本当に停電してるの?それとも私にはそう見えているだけ?」「ホテル:究極的には全てがあなたの認識です」。そう、アニメパートに入ってからは「ロビンの認識」の世界に入っているのだ。何が実際に起きている事象なのかなんて、ほとんどわからない。

それでもこの作品がいいなぁと思うのは、何か感傷的なシーンではこちらもきちんと悲しい気持ちになれること。笑いについても然り。

抽象度や芸術性が高いとされる作品ほどキャラクター個人への感情移入って難しくなるように感じるのだけれど、この映画は前半できちんとキャラのドラマと世界の説明をしてくれていたおかげで、アニメパートでぐっと抽象度が上がっても感情的についていけるのだ。「キャラが何やってもよくわかんないし…」という感じにならない。データとして歳をとらなくなったロビンが、老いた姿で「forever young」という曲をバックに空を舞うシーンなんて、論理的な辻褄合わせはできなくとも何か心にくるものがある。

幻想と現実を横断する最高の見せ場

さて、アニメの世界=自分の中の幻想世界に迷い込んだロビンだけれど、気にかかるは息子アーロンのこと。もはやどれだけ時間が経ったのかはっきりとせず、彼が現実世界にとどまっているかもわからない。けれど、望みをかけてロビンは現実へ戻る…

もうこのシーン、最高。虜になるというか息をのむというか…。現実世界はそれはそれは悲惨な感じ。「自分の見たい幻想を見ることができるのって結構悪くないんじゃない?薬やCGによるイリュージョン万歳」なんて考えを完全に否定してる。

現実世界に戻ったロビンだが、結局アーロンがそこにはいないことを知る。彼は半年前に幻想世界へ旅立っていたという…なんとタイミングの悪い。そうしてロビンは再度薬によって幻想世界へ行く…

火山の音と黒い雲と5メートルのグライダー

アーロンは、ロビンの息子であるということ以上に、この物語においてかなり特別な存在だと思う。彼は視覚と聴覚が衰えるという難病を患っていて、もはや外部からの情報を正しく認識できなくなっている。彼は必然的に自分の中で自分独自の幻想世界を作り出していた。

まず「黒い雲」。彼は、旅客機の離着陸エリアの側で凧揚げをして怒られる。その時の言葉「もう少しだったのに。赤い凧と、白い飛行機と、黒い雲が重なる瞬間が好きなんだ。」…黒い雲って何だ。空は晴、白い薄雲はあったけど、黒い雲なんて無かったが。この答えは公式のキャラ説明にあった。「〜彼は凧を本物の旅客機に衝突させることを夢見ており〜」…彼は空で飛行機が黒煙をあげるのを夢想し、そしてそれをあたかも見た事があるかのように語っている。

あと「火山の音」。アーロン視点のシーンの際、この「火山の音」が何度か流れる。また、病院でこの音が流れた際に、一瞬だが人間の血管のような絵が現れる。手のひらを耳に押し当てるとわかると思うんだけれど、人間の血の流れる音や筋肉の震えって火山の音みたいなんですよね。アーロンは外界の音声を聞き取れないがゆえに、自分の内側の血潮の音をよく聞くようになり、さらにそれを火山と解釈しているんじゃないか。

そして「5メートルのグライダー」。クライマックス、アーロンは飛行機を作っていた。そしてこれ、かつて彼が手に入れた小さなグライダー模型そのまま。彼が、自分の幻想のなかで大好きなグライダーを作っていることは何の不思議もないが、問題なのは、この薬が世に広まるよりはるか以前、前半パートの診察シーンで既に「自分は5メートルの大きさの本物(のグライダー)を作っている」と告げていること…

先生が言ってた通り、物語の初めから、彼は誰よりも早く自分の幻想世界に入っていた。でも一方で、彼は現実世界にきちんと足を下ろしているようにも見える。多分、彼は辛い現実を生きるために必要な糧として幻想を見ていたんじゃないか。現実を見る事が出来なくなる薬とはちょっと違う。幻想と現実の間のギリギリのところでバランスをとり、懸命に現実を生きてきた。(しかし、そんな彼も心折れて薬を飲む…「半年前」、何かあったのかな。もう一度見たらわかるかなぁ。)

ロビンはうまく選択ができない

現実の世界にいながら、幻想に足を踏み入れていたアーロン。ロビンが彼のそばを離れなければ、現実にいたって幻想にいたって一緒にいれたのかもしれなかったのに。(実際、幻想世界においても、コングレス会場のホテルエントランスや、ヘリの上や、冷凍睡眠中の氷の世界で彼と会えているし。)

元ミラマウント社員が「僕をとるのか、息子を取るのか」なんて言ってたけれど、彼女はいつもの選択ミスでどちらも手に入れることができなかった。

そして、現実でも、どんなスターになれる幻想世界でも、頑なに自分であり続けたロビンなのに、とうとう最後に「ロビン」を手放してしまった。アーロンを追いかけるためにアーロンになったけれど、そんなロビンの姿をみた彼の顔。あれ、ハッピーエンドの顔か?(もう一度見ないとわからないけど多分違うと思う。苦笑い的な…)。ロビンはずっと選択ミスをしてた人間として描かれているけれど、これ、最後の選択もミスったんじゃないか。

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コングレス未来学会議.パンフレットより.:アーロンはもうずっと飛行機をつくりながら、「ロビン」を待っていたんじゃないかという気がするよ…

より強い刺激や薬で与えられた、個々人の頭の中の幻想。自分の観たいものを選んでいるつもりだけれど、実は自分自身を放棄していて、残されているのはボロボロの現実。

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昼ご飯の直後に観たのですが、ビールとか頼まなくて本当に良かった。酒飲んで観たら頭おかしくなりそう。小説を読んだ後、しばらく自分の中の思考の言葉がその小説の文体で再生されることがあるのだけれども、この映画は視覚でその現象が起こりそうでヤバい。大変面白かった。もう1回見たいな。

 

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