漫画のメモ帳

早口で漫画について話すブログ

老人Z/監督:北久保弘之/脚本:大友克洋 暴走する介護SF

老人Z HDマスター版 [DVD]

1991年公開の長編アニメ。最初に観たのはNHKBS。内容はほとんど理解していなかったがなぜか記憶に残り、その十数年後の2007年くらいに再視聴&爆笑、Amazonの欲しいものリスト入り。そして2015年、埋もれたリストの底から発掘、ついにDVD買っちゃった。

同じアニメで2度爆笑することは無いだろうと思っていたのだけれど、今回も同じシーンで声を出して笑った。20年以上前の作品なのに、未だに超面白い。

---

バブル感が残る日本が舞台。厚生省厚労省ではない)の専らの課題は高齢化社会における老人介護の対応。彼らは民間企業と連携し、足りない人手の対策として、体調管理から食事・着替え・入浴およびシモの世話までを全自動で行う超高性能ロボット「Z-001号機」を開発。そして、このモニターに高沢という一人の老人が選ばれる。

「家族は同意済み」と、有無を言わさず連行される高沢…そして、そんな様子を目の当たりにしていたのが、看護学生のハルコ。彼女は、機械に繋がれた高沢からのSOSを受け取り、彼を解放しようとコンピュータに精通した老人たちに助けを求める。そして、ハルコの呼びかけが通じた時、Z-001号は自我を持ち、あらゆる無機物を取り込みながら暴走を始める…

まったく繊細でない人とロボットの物語

ハルコは「こんな機械に繋がれて、お爺さんかわいそう」という憐れみと正義感から行動を始める。効率化のための機械化と、ホスピタリティや人間らしさの対立やらが作品の要素の一つ。

どこまでも深刻捉えることができる題材だけれども、重さや暗さは全く感じられない。「はるこさ~~~ん、もらしちゃうよ~~~」なんて冒頭の高沢老人の叫びからして、老いに対してウケを狙っている空気を感じる。

お前も機械にしてやろうか

若者側の自分からすれば、このZ-001号機は実際かなり便利そうだなぁと思ってしまう。下の世話も自動で清潔なんてかなり魅力的だし、ネットも可能なんて聞くと娯楽もばっちり、完璧な装置に感じられる。

しかし、機械にがっちり繋がれた側はたまったもんじゃないのだろう。少なくとも、この高沢老人はそうだった。こうした苦痛は静かな音楽とか哀愁漂う表情等の演出がされてもいものだけれど…そんなものは全くなく、終始描かれるのはギャグテイストの「暴走」。「機械化、政策?なにそれ?窮屈なの嫌、海行きたい~」…そして老人は走りだす。

一連の暴走シーンはもう最高

このZ-001には、ヒマな老人の会話相手を作るために、老人の記憶から人物を再現する機能がある。これが暴走の原因。高沢の記憶にいる他界した妻「はるこ」が再現されたうえ人格を持ってしまい、苦しんでいる老人とともに二人の思い出の地へ向けて走り出してしまう。

「かあさーん。めし~~」という高沢に「お爺さん、ちょっと待ってくださいねぇ」なんて品の良い老婆の声で答えながら、機動隊や警官をなぎ倒し商店街を破壊する。

特に好きなのは、モノレールのシーン。Z-001はあらゆる無機物を取り込み巨大になり、果てにはモノレールの線路上を爆走し、乗客を乗せた車両を華麗にかわしながら走り続ける。ここの動きが本当に素晴らしい。何度見たって笑う。

肥大化したZ-001のビジュアルもなかなかゴツイ。動く瓦礫の山だ。ラスト付近で、ハルコがこの山をよじ登るシーンがあるのだけれどその質量がものすごい。それもそのはず、エンドロールをみていたら美術設定が今敏だった。あまりクリエーターには詳しくないのだけれど、それでも見覚えのある名前がちらほら…豪華な制作陣によって描かれる「機械の暴走」。とても楽しい。

 なんかよくわからない明るさ

少子高齢化・労働力不足・資源不足なんてもう生まれてからずっと言われていることで、大げさに悲観こそしないけれども、決して楽観的な未来なんて簡単には想像できない。しかし、そんな題材を扱っていながら、このアニメは明るく適当。帰結も「安直なことすると大変なことがおきちゃうかも」って感じで基本的に何も解決はしないし。

とち狂った勢いと明るさがあれば、もうなんだっていい。そんな酔っ払いのようなハチャメチャさ。

---

流石に絵柄は古い感じはあるけれど、だからといって敬遠してはもったいない。ハルコなんて、まわりまわって現代のカワイイにばっちり合致したビジュアル。扱う問題だって未だタイムリー。またテレビで放送すればいいのに。

 

 -----

他作品の記事リストはこちら