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乙嫁語り/森薫(7巻【以下続刊】) 主人公の容姿さながらのサラッとした章

 

19世紀後半の中央アジアカスピ海周辺の地域を舞台に、「乙嫁」をキーワードに、厳しい自然の中に生きる人々の生活と文化、時に人間の愚行を織り交ぜた物語を緻密で丁寧な画で描く。Wikipedia乙嫁語り」より)

中央アジアカスピ海周辺」が舞台ということで、今までわりとハッキリした顔立ちの登場人物だらけだった乙嫁語り。本巻も舞台はペルシアなのだけれども、表紙の主人公は、中国・日本を思わせるようなさらっとした容姿…さて、舞台がガラッと変わってどんなお話になるのだろうとページをめくった瞬間やられた。カワイイ…!今回のヒロイン、まず見た目がめちゃくちゃカワイイ(今までの嫁達もかわいかったけれど)。

 「お嫁さん」がテーマである本作、現代日本のように男女同権といったものとは程遠い世界。もちろん、嫁が一方的に迫害される…なんてことは全くなく、既刊においても生き生きとした強い人々が描かれている。しかしながら、嫁ぎ先次第で人生が大きく変わってしまうのも事実。どうかこのヒロイン・アニスが不幸な展開に巻き込まれませんように…と思わずにはいられない。

乙嫁語り 7巻 (ビームコミックス)

ヒロインアニス。黒髪七三分けのビジュアルは、まさに清楚。綺麗な濁りのない水の印象も強い。7巻全体の雰囲気もこの通り。

ヒロイン・アニスは裕福な家のお嫁さん。夫も彼女にベタ惚れで、妻を複数持つのが当然の世においてもアニス一筋。広い屋敷で夫の愛を受けながら、何不自由ない豊かな生活を送っていた。

そんなある日、彼女は使用人から「姉妹妻」の話を聞く。「姉妹妻」とは、結婚して子供のいる女性2人の契、一生の親友となる関係のこと。裕福ながらも友人と呼べるような存在がおらず、どこか寂しい思いを持っていたアニスはこの「姉妹妻」の話に心惹かれ、親友を探しに街に出る。そして向かった先は…風呂屋。浴場がの人々の交流の場であったのだ。

裸婦だらけの白い画面

お風呂屋さんが今回の主な舞台ということで、裸体だらけの画面…。作者自身もあとがきに書いているが、今までは密な書き込みで表現される絢爛な衣装も見どころの一つだったから、白く豊かな女体だらけの絵で不思議な感じ。おっぱい祭り。

そしてこのお風呂さんでアニスはシーリーンという女性を見つける。アニス曰く「猫っぽい」彼女、アニスは細身なのに対して、豊満・妖艶…次第に二人は仲良くなり、姉妹の契りをかわす。

結局、全体を通して大きな波乱は無い。ある日、シーリーンの旦那が急死してしまうにだが、なんとアニスは旦那に頼み込んで、シーリーンを2人目の妻とすることで彼女やその家族を助けようとするのだ。マジかよ。これには旦那も面食らうが、彼もいい人だから困窮する人をを助けることに何の迷いがあろうかと、シーリーンを迎え入れる。そしてアニスとシーリーンはより深い関係となり、どこか孤独だった彼女はここらか幸せそうな笑顔を浮かべるようになる…そんなお話。

アニスは天然悪女?一夫多妻はある意味便利?

旦那は一夫多妻のなかでアニスだけを妻としていたのに、そのアニスのほうから別の女を妻として勧められるなんて、ちょっとかわいそう…ww

彼は「アニスの好きなように、アニスが嫌な気持ちをしないように」と、人格に優れた財力のある「立派な男性」として彼女を大事に大事にしている。一方で、彼女が風呂屋を気に入っているという話を聞いたとき、彼はちょっと微妙そうな顔を見せる…ここは普通の男性の顔。自分だけを見ていたアニスが、別の世界に心奪われそうになっていることに、ちょっとモヤっとしている。わかるわかるよ。

さて、そんな彼がアニスにシーリーンを助けてほしいと言われたとき、当然彼は戸惑う。しかし「立派な男性」として、困っている人を助けられるのにそれをしないなんて選択肢はない。宗教的な価値観もあるのだろうが、特に優しくて誠実な彼は、シーリーンを娶るという決断をする。しかし一方で、普通の男性としての彼は「ええ~」という感じ。表情にも出ている。僕は君だけでいいのに、君は僕がほかの誰かと懇ろになてもいいの…みたいな。

しかしアニスはここで素晴らしい言葉を旦那にかける。夜の寝室、旦那の手を取り、まっすぐに見つめて。

「私、あなたのことを本当に尊敬しているの」

ああ~~~こんなこと言われたら、旦那はもう「僕は君だけが欲しいんだ!」なんて俗な方の自分は出せなくなっちゃう。旦那は愛するアニスにそういわれたことで大変喜ぶ。そしてシーリーンやその家族に、新しい別宅を建設するという心づくしの待遇で迎えてあげる。そしてアニスとシーリーンはずっと一緒にいることができる…

一夫多妻、あなたは私だけのもの他の人にはとられたくない…なんて気持ちを持つ人々からしたら微妙な制度だと思う。一方で、そういう異性への独占欲がきわめて薄い人もいると思う。大事なのは自分の伴侶だけじゃない、友人や隣人も等しく大事。もしくは、伴侶以外にもっと大事な人がいる。そういう人々にとっては、一夫多妻って「私の守りたい多くの人が(少なくとも経済的に)幸せになれる」制度なのかも。アニスは、この一夫多妻を完全にうまく扱って、完璧な自分の幸せを手に入れている。旦那はもちろん離れない、友人も助けられる。うーんやりおるな。

森薫の作品全体から見ても異色の7巻

「お嫁さん」がテーマということで、今までは「家」「一族」や「旦那」が核となる話が多かったのだけれども、今回は珍しく「友達」がストーリーのメイン。おかげで旦那を初めとする男達は割と空気。女同士、頬を染めながら誓いをかわすものだから、かなり百合っぽい雰囲気が漂う異色の章。

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森薫.乙嫁語り.7巻.第三十九話「はじめまして」より.:恥じらう二人、ぎこちない出会い…現代の「友達」とはあきらかに異なる雰囲気が漂う関係。このコマののように、作品全体が白くキラキラしたお話。

幸せになったのは本当に良かったけれど、ちょっと物足りない感じもあるかな。やはり旦那がかなり出来過ぎなのかも…広大な屋敷の描写もあいまって、既刊で描かれていた「生活」の現実味がなく、キラキラした世界。森薫の作るお話としては結構珍しい。特に本作のメインヒロインのアルミのお話と比較すると、だいぶライトな内容だった。

7巻単体でみると軽い印象だけれども、「お嫁さん」の連作として乙嫁語り全体を通してみると、雰囲気が異なるいいアクセントの章なのかも。

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そして次巻からは第1の嫁アルミの世界に話は戻る。アルミの友人、パリヤのお話。不器用なパリヤがメイン…これは楽しみ!アルミ達の様子も気になる。次も必ず買う。楽しみ。

 

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