子供はわかってあげない/田島列島(上下巻【完結】) 強い子供たちがつくるやさしい日々
田島列島という新人?の作品。Amazonでの紹介はこんな感じ。
水泳×書道×アニオタ×新興宗教×超能力×父探し×夏休み=青春(?)。モーニング誌上で思わぬ超大好評を博した甘酸っぱすぎる新感覚ボーイミーツガール。
ボーイミーツガール…でもふつう
確かに少年と少女が出会っているのだけれど、学校の屋上で同級生同士が顔を合わせるという、あくまで普通の日常から話は始まる。キラキラした演出は一切ない。絵柄もシンプル。出会いはボーイミーツガールと呼ぶにはいささか地味に感じられるくらいの日常感。
田島列島.子供はわかってあげない.上巻.①より.:屋上でアニメのキャラを描く少年(もじくん)と意気投合する水泳少女(サクタさん)。地味な絵、地味な二人。モジ君の顔の線の少ないこと…
そんな二人は、ちょっと非日常的な夏休みを過ごすことになる。離婚して行方がわからなくなっているサクタさんの父親を、探偵をやっているもじくんの姉(性転換済)に捜索してもらうことになるのだ。そして、捜査を進めると実はこの父親は新興宗教にかかわっており、しかも教団の金を持ち逃げしていて、さらに実は超能力者で…と、文字に起こすと色々詰め込みまくってるストーリー。でも読んでいると不思議とまったくそんな印象はない。それらの不思議な出来事すら彼らの日常のような空気感で話は進む。
わかってあげちゃう子供達
「離婚して行方のわからなくなった父親」に会いたくなったとき、サクタさんは今の家族のことを考える。暗い表情になるわけでもなく、当たり前のように思う。でも会いたいから合宿をサボって旅にでる。
田島列島.子供はわかってあげない.上巻.②より.:この「コレ(幸せ家族)、壊れちゃうかな?」なんてセリフは、暗くシリアスに描かれても不思議でないのだけれど、サクタさんの表情はこの通り。変に騒ぐでもなく、でも思慮が足りないわけでもなく…立派だよ。大人でも難しいよ。
お兄さんが「お姉さん」になったもじくん。普段はお姉さんにも普通に接するし、それこそ家の書道教室を手伝ったりと十二分にできた人物だけど、何か思うところがないわけではない。
田島列島.子供はわかってあげない.下巻.⑭より.:変に振り回されないよう、取り乱さないよう。周りも悲しむし、自分もへこむから。逆光の背中で語る。サクタさんと同じ強さと優しさ。
二人とも、一般の高校生以上にできた子だ。タイトルに反して、十分「わかっている」子供達だよ。誰かを悲しませたりもしない。周りの人だって彼らを大事にしているし、本人たちだって何か我慢をしているつもりもない。日常はギャグを挟むユーモアや余裕もあって明るく穏やか。まっすぐな子たちだから、そんなやさしい日々を送れている。
でも心の中には何かがある。だから行動せずにはいられない。
夏の青春
じわりじわりと高まる気持ち、縮まる距離。セリフも絵も本当に好きだ。(恋愛的な意味に限らず)互いを思うことが、心の中の崩れそうな部分を包んでいく感じ。分別のある良い子で、でもまだまだ思春期で。そんな二人の様子にニコニコしてしまう。
そして最後までよむと、やっぱり「ボーイミーツガール」という紹介で良かったんだなと思う。何の派手な演出もないのに、こんなにきらきらしているなんて。ギャグも交えてほいほい読ませて、実はしっかり盛り上げている。ここぞという時のセリフもいい…夏にぴったりの素敵な漫画。
田島列島.子供はわかってあげない.上巻.④より.:テキザイテキション(適材適所)。こんな感じで、小さいコマながら結構な頻度でキレのあるギャグを入れてくる。笑う。
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