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ぷらせぼくらぶ/奥田亜紀子(単巻【完結】) 繊細で鮮やかなきらめきと残酷なキャラ設定

ぷらせぼくらぶ (IKKI COMIX)

すぐ隣の、「あの子」の世界は「あっち」側。 自分のしらないみんなのじかん。できごと。 岡ちゃんは思う。「私と違ってみんなは色んな場所に行けるんだ」

奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その4「さざなみ先輩」より.

学校というコミュニティの中には明らかに「階層」がある。容姿が良くてイケイケの人。デビューに成功した人。派手さはないけどそれなりに馴染む人。自分の世界にこもる人。冴えない人。いじられる人。いじめられる人。この作品は、主にその階層の「下の方」の人々をメインに、日々の様子と揺れる心情を描いたもの。

内面の描写が劇的

学校の中ではモブキャラ扱いの彼らでも、当然、その内側には色々な気持ちを秘めている。不格好ながら少女漫画のような「運命」を信じていたり、自分のおかれている境遇にうんざりしていたり…そして、その心情の描き方がとてもきれい。通常は学校生活の様子が至って現実的に描写されているのだけれど、人物の気持ちにグッと近づいたとき、比喩的抽象的なコマがバンと差し込まれる。学校の中での立ち位置は冴えないものであっても、その内面は彩豊かなのだ。この心情の描き方がこの漫画の魅力の一つ。

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奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その3「放課後の友達」より.:イケてない武庫川は、イケてるヤツらに都合のいいように扱われる。笑って流すが、内面は静かに自分を殺して静かに絶望。息をのむような劇的で的確な描写…

これでもかと描かれる「隔たり」

この作品のメインの主人公は女子中学生の「岡ちゃん」。容姿も悪く、空気も読めず、冴えない。でもぼっちというわけではなく、田山という友人がいる。そして、残酷なのがこの田山が岡ちゃんより少し上の存在であること。田山も冴えないタイプなのだけれど、次第に岡ちゃんとの差が明らかになっていく。田山には岡ちゃん以外の友達もいる、クラスの男子とも話せる、冴えないながらも彼氏ができる。そして、摩擦や消耗は、異なる階層の人間同士の間で発生しやすい。田山と岡ちゃんもなんかズレてしまう。そうした失敗の様子もこの作品の魅力の一つなのだけれど、苦しい。

そもそも、キャラの外形からしてもう隔たりが明らか。田辺は普通の頭身なのに対し、岡ちゃんは低頭身でデフォルメされたような描き方。あともう一人、土屋という男子も出てくるのだけれども、彼も同じ描かれ方。この二人以外は、何か不細工な特徴づけがされていたとしても、あくまで普通の範疇の見た目。でも、この二人は違う。明らかに異質で、他のキャラと並ぶと変。「この2人は明らかに皆とは違う、輪に入れない」と言っているようで、結構エグいビジュアル設定だと思う。

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奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その1「僕の望み」より.:田山と小さな岡ちゃん。/奥山亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その3「放課後の友達」より.:小さな土屋と武庫川。岡ちゃんと土屋はギャグ描写等でこういう頭身になっているのではなく、常にこの状態。

岡ちゃんも悪いあたりさらに苦しい

岡ちゃんは、うまく人付き合いができない。気の利いた言葉選びができない。その場その場で相手の気持ちを汲み取った行動もできない。そして、それは時に「不器用」の域を超えて「無神経」として他人に不快感を与える。「周りが岡ちゃんを迫害しているからいけない」という構図ではない。「うまくできない岡ちゃんがいけない」のだ。

岡ちゃんや土屋が人とうまく付き合えない根本の原因には、容姿が良い悪いとか、ノリがいい悪いとか、そうしたロジカルじゃない雰囲気が絶対的な価値を持つ世界の中で、色々な機会から締め出されてきた背景があると思う。これらは「岡ちゃんのせいではない」ことだけれど…悲しいかな、それが今この時点で岡ちゃんが無神経な行動をとったことに対する情状酌量の要素にはならない。岡ちゃんだって、自分の振舞がいけないのはわかっている。でもうまくできない。苦しい…

 隔たりがあっても繋がる瞬間

「摩擦や消耗は、異なる階層の人間同士の間で発生しやすい。」とか暗いことを書いたけれど、生まれるのは負の感情だけではない。嫌になるようなことの方が多くなるかもしれないけれど、そうじゃないことだってある。思わぬ人が声をかけてくれたり、こちらに気づいてくれたり、心を寄せてくれたり。一瞬のことかもしれないけれど、それは何か太陽から強い光を浴びたような、優しくきらめいた瞬間になる。そういう情景がこの作品には描かれている。

 うまくいかない、でも光があたっていた瞬間も確実にあった。そういうきらきらした瞬間を集めて、成長していく。嬉しいような悲しいような、そんなもどかしい青春のお話。

 

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