春原書留所

普通の会社員が書く漫画アニメの感想・解説ブログ。基本完全ネタばれです。安月給なのに漫画買いすぎて毎月金欠。

東京タラレバ娘/東村アキコ(1~3巻【以下続刊】) 1エピソードにつき1つづつ砕かれるアラサー女の期待

東京タラレバ娘(1)

「女子会」で繰り広げられる恋愛話のように、下世話で自虐的で痛くてエグく、それでいて好奇心を煽りまくるマンガ。「まぁ良い人がいれば、いつかは普通にしたいよね」くらいの結婚願望がある人に超おすすめ。教訓となる…とかそういうことではなくて、ワ―ギャー言いながらこの作品を一番に楽しめるのはその層だと思うからです。

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主人公は33歳独身女性3人組(倫子、香、小雪)。彼女たちは、夜な夜な居酒屋でかしましく女子トークを繰り広げている「綺麗になっタラ結婚できる」「出会った人を好きになレバ結婚できる」。そして、そんな様子を見ていた若い男性客が一人。彼は、いつもうるさい彼女たちに業を煮やし容赦なくこう告げる。

「何も根拠のないタラレバ話しでよくそんなに盛り上がれるもんだよな…」「そうやって一生女同士でタラレバつまみに酒飲んでろよ!このタラレバ女!!」

東村アキコ.東京タラレバ娘.1巻.ACT1「タラレバ女」より

どこかでまだ大丈夫と思っていたけど、実はもうあまり時間がないらしい。でもどうしたらいいのかわからない。そして彼女たちは人生の迷路に入ってしまう…

社会人としては十分成功している主人公たち

彼女たちはそれぞれ、ドラマの脚本家、ネイルサロン店主、親のやっている居酒屋の料理人という仕事を持って、きちんと生計を立てている。華やかでスキルのある素敵な仕事。成功していると言っていい。また、容姿もオシャレで綺麗。パッと見のステータスでいったら普通に魅力的な女の人達。

そして、彼女達自身もそんな自分のスペックを自覚している。昔は無敵だったし、今だってそんなに変わんない。だから、期待を捨てられない。いつか自分を愛してくれる素敵な誰かが現れる…

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東村アキコ.東京タラレバ娘.1巻.ACT1「タラレバ女」より.:右から倫子、小雪、香。お綺麗な3人。倫子は深津絵里っぽいね!10年越しにアプローチしてきた男について好き勝手に言う、よくありそうな女子会の風景。

そんな希望をバッサバッサ

しかし、そんな彼女たちの期待は実を結ばない。もう笑えるくらいバッサリ切られる。これがこの作品の魅力。

例えば最初のエピソード。昔「ダサい」という理由でフッた男性が、時を経て成長して再度倫子にアプローチしてくる。前と同じ感覚で「まぁ今回は付き合ってもいいかな」なんて余裕をかまして、でも「結婚できる!」って期待は高めまくって…しかし、いざデートに望んだら、彼は若い女の子に夢中でに自分のことは既に全く眼中になかった。勘違い。爆死。そのときの衝撃具合といったらない。ギャグタッチでこれでもかと描かれる。

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東村アキコ.東京タラレバ娘.1巻.ACT1「タラレバ女」より.:衝撃を受ける倫子の心象風景。見開き2ページで爆発する倫子の職場…ここまですがすがしい「ちゅ どーん」は久しぶりに見たw

この後も、おおよそ1エピソードにつき1つづつ、何かしらの「アラサーの淡い希望」が砕かれていく。「私のこと愛してくれている→気まぐれでした」「元カレとイイ感じ→二番手でした」「仕事でかましてやる→ダメダメ」。じわじわ上げて、めくった次のページで落とす…さながらコントのよう。でも、ダメな理由も正論だから、面白いと同時に残酷で痛い。

人物自体は「リアル」というわけではないけれど

彼女たちのスペックや、周りの男たち、そして行動や言動等自体は、そこまでリアルでない。「脚本家」「ネイルサロン店主」なんて同年代の女のなかでもかなりキラキラ成功している一握りの存在。周りの男も「売れてるモデル」「売れてるミュージシャン」「レンタルビデオ店で声をかけてくるイケメン」等々、まぁ普通に出会うことはあまりない人々。

また、彼女たちの言動も、ギャグで誇張されていたりするから過激になっている部分もある。居酒屋でバカ騒ぎしたり、酔って道端で寝ぼけたり、衝動的にタクシーで箱根行ったり、仕事があるのに酒飲んだり…まぁここまでする女性は現実ではあまりいないだろう。

リアルなのは、その状況。「気づいたら33」「なまじ自分のスペックが良いために妥協ができない」「結婚が目的になっている」「今は取りあえず目の前のエサにつられる」「辛いからヤケになる」。自然な流れで泥沼にハマっている様子が描かれている。先に書いたリアルじゃないアイテムは、物語としてその泥沼にハマる速度にアクセルをかけるためのもの過ぎない。そして、状況がリアルだからこそ、かまされる説教も的確で痛い。物語としてのスピード感やキラキラ具合と、リアルの正論が入り混じって、キレがある。

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東村アキコ.東京タラレバ娘.1巻.ACT4「貯金女と年下男」より.:白子(タラ)とレバーの幻想が説教役として随所随所で現れる。こんなかわいい顔してもうバッサリ。

選択の自由の中とタイムリミットの狭間で迷子

結婚自体を重視しない人から見れば、この漫画はそんなに面白くないのでは。むしろ「結婚=幸せ」なんて考えが全てのようで不快ですらあるかも。また逆に早くから結婚を重視する人からも、アラサーで未だ実りのない道を歩む3人の姿は共感できるものではなく「ちんたら何やってんだ」と映るだろう。

この話に心揺さぶられるのは、主に、まあまあ普通の流れにのって社会に出て、尚且つそこそこ一般的な結婚願望を持つ人たちではなかろうか。例えば大卒22歳。恋人がいないまま仕事に力をいれていたりすると、慣れるまで3年として25歳。ようやく一人前にになって責任も増えて夢中になっているうちアラサー…なんて全然不思議でない。「気づいたら」の状態の出来上がり(男性はもう少し先だが)。そうすると、俄然この漫画が他人事でない状況になる。

今や、誰かが誰かに結婚や職業を強制することは基本的にない。高校に進むか、大学院まで行くか、何の職に就くか、フリーターになるか、結婚するか、誰と暮らすか…原則すべて自由である。でも、選択には残念ながらタイムリミットがあって、他の選択と微妙に相容れない場合もある。自分で選ばねばいけない。厳しー。

そんな状況の中でこの主人公達のように、未だ若い頃と同じ目線でいたり、恋に恋する状態だったり、金や肩書きに走ったり、顔や雰囲気さえ良ければすぐ飛びついたり…本当に得たいものから遠ざかって消耗ばかりしてるとますます茨の道。

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東村アキコ.東京タラレバ娘.1巻.ACT1「タラレバ女」より.:「私たちには もう 時間が無いらしい」。時間がないっていうのは、男女関係なく本当に誰にとっても痛い。

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3巻まで出ているけれど、未だ彼女たちの出口は見えていない。これからどこまで堕ちていくのか、最後どんな救いがあるのか…もしくは何もないのか。すごく楽しみな作品。

 

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