漫画のメモ帳

早口で漫画について話すブログ

ユリ熊嵐 解釈と感想…所与のルールを打ち破って

 

TVアニメ「 ユリ熊嵐 」エンディングテーマ「 TERRITORY 」

ユリ熊嵐みてました。自分なりのキーワードと事象の解釈。抽象的なものをあんまり無理くり解釈するのもナンセンス…と思いつつ、こういう楽しみ方もやめられない。

 

断絶と取引と承認…この世界のルールとクマリア様

  • 断絶

この世界には断絶がある。このこと自体は良いも悪いもない。地理的条件だったり、言語、文化、生物学的な種の違い…これらがあることはどうしようもない。人が海に入れば窒息してしまうし、魚が丘にあがっても死んでしまう。人がクマの森に入ったら食べられてしまうし、クマが人のいる里に降りれば殺されてしまう。隔たりを超えたら基本生きていけない。だから不可侵が原則。

  • クマリア様、断絶の裁判所

この隔たりにはそれを司る神様のような存在がいる。そして、神様はそれら隔たりを超えたいと願う者にもチャンスを与えてくれる。そのように秩序と許しを与えてくれるのがクマリア様(=断絶の裁判所の3クマ達)。人魚姫の物語に人魚が人間になれる魔法があるように、この物語にもクマと人が壁を超えて結ばれる可能性がある。本物のスキを貫き約束のキスを果たすことがその条件。

絵本の話:クマリア様の司る空によって、相容れない二つの世界は隔てられいた。ただ、そこには友達の扉があって、「あなたのスキは本物?」の問いの元、己が身を引裂けばそこで思い合うもの同士は一緒になることができた。

  • 断絶を超えて一緒になるために

絵本の話や結末をみるに、壁を超えて一緒になる…本物のスキ、約束のキスを叶えるために必要とされるのはおおきく2つ。

①自分を砕くこと(自己改革、自己犠牲):もともと何らかの隔たりがある者同士、そのままでは一緒にいられない。自分を変えたり、自分を犠牲にする覚悟や献身が必要。

②互いに思い合っていること:一方通行な独りよがりじゃダメ、二人ともが友だちの扉の前に立つ必要がある。あの場所で待ってる。

…なんだか結婚生活の秘訣みたいな内容。

  • 取引と承認

「あなたのスキは本物?」という象徴的な問いと、承認されるということ。これは、決してクマリアや裁判所が「はい、お前のスキは本物!承認!お前のは違う!非承認!」とかそういう話ではないと思う。

Episode10 ライフセクシー:スキにはいろいろな形がある。だからクマリア様は断絶を超える全てのものに「あなたのスキは本物?」と問う。

どのようなかたちのスキであろうと、壁を越えようとする者についてクマリア様は門前払いをしたりしない。

るるが語った裁判の秘密:クマが女の子になるためには断絶の壁と取引をする。裁判所で、一番大事なものを差し出してユリ承認されれば女の子になれる。

それこそ、歪んだスキをもったユリーカでさえユリ承認されたのだ。「承認」自体は誰でもされる可能性があるのだと思う。

  • あなたのスキは本物?

思うに、あなたのスキは本物?の問いは、「お前覚悟はできているか?」というニュアンスが強いように感じる。互いに己が身を砕かないとスキを手に入れることができない世界にお前は足を踏み入れるが、本当に大丈夫か?という出国審査。そこで差し出す「一番大切なもの」は覚悟の証の通行料、人魚姫の魔法の代償。どのような形であれ、覚悟を示したものをクマリア様や裁判所は承認してくれる。

そしてこれは、約束のキスへの第一歩。あくまで第一歩。本当にそれは本物のスキなのか?己が身を砕けるのか?相手も同じ場所にきてくれるのか?その覚悟の示し方は正しいのか?愛の求め方を間違っていないか?そこまでは裁判所やクマリア様は保証していない…本物のスキを手に入れて、断絶の向こうへ旅立てるかどうかは、当人の問題。

人魚姫はうまくいかなかった。承認されて、人になったけれど、思いは届かず悲しい自己犠牲で一人で旅立った。紅羽と銀子は二人に一緒になれた。

 

透明な嵐と蜜

スキの象徴として描かれていたのが星の色をした蜜。ミルンがるるに蜜壺を何度も差し出したり、紅羽と銀子のハニージンジャーティーだったり、紅羽の中に百合の蜜があったり。また、蜜子や銀子曰く「スキを持つヒトは蜜の味がする」。スキの思いは星色に輝く甘いユリの蜜。

  • 透明

そんな蜜と相容れないのが透明。好きをあきらめず誰かを選ぶことは、愛を持ち、蜜をもつこと。透明な集団の中ではまさに文字通り異色の存在となる。だから透明な集団からは悪と認識され排除されるし、蜜の味故にクマにも目をつけられやすい。それでもスキを貫くか?それとも集団のなかで透明になって誰も選ばず何者にもならずやりすごすか?…本物のスキが欲しいなら、当然この試練と向き合わないといけない。

  • 嵐、排除

集団で思考停止して、そこから逸脱することを悪とし排除すること。この透明な嵐のタチが悪いところは、その排除にもっともらしい理由づけがされていること…たとえば「クマと人が仲良くするなんて罪」といった正論っぽいルールをよりどころにしている。決して間違っていない、だから従わないのは悪。そんなロジックが簡単に成立してしまう。

実際には世界には断絶を超える可能性が与えられていて、たまにそれを超えようとする愛のある挑戦者が現れるが、思考停止しているものにはそれは悪にしか映らない。自分たちのルールや安寧を脅かしているように見えるから、強烈に排除する。中身のない強烈な圧力。

透明な嵐は色々なもっともらしい理由のもとに存在し続ける。でもそこで立ち止まって考えて、「べつにいいじゃん、やってみなよ。」と言う寛容さを持つこと。自分自身が「当然」と思っている我々のルールを見つめて、時にそれを改革すること。それが世界を変えること。ラストの銀子と紅羽の姿と、それに感化された女の子の姿は、そんな世界の可能性を示していった。

クマは原初的欲求が強い生き物

  • クマの欲望

この作中では、特に蜜子が動物的なクマという感じで描かれていたように思う。食べる!いちゃつく!支配する!…等々、食欲性欲勝利欲等々、生き残るために必要なものを貪る生き物。クマも人も、こうした欲望を持つことは当然。でもそれだけでは本物のスキには程遠い。

11話で蜜子が銀子に「欲望を捨てることは死を意味する」と言っていた。人にもある原初的欲望だけれど、クマはそれがさらに強いし、その欲望が満たされるか否かが生き死にに直結する。ケモノの世界。だからそれを捨てた銀子は、まさにクマである自分を否定する…自分を引裂く選択をしたのだ。

  • だから壁が無くなると

小惑星クマリアの話:小惑星クマリアが爆発、そのかけらが流星群として地球に降り注いだところ世界中のクマが人を食べるになってしまったため、ヒトは熊を追い出すため「断絶の壁」を作った。

クマリア=秩序が爆発し、世界に隔たりがなくなってしまった。結果、こうしたクマの欲望を止めるものがなくなり、隣人であるヒトをたべてしまうようになった。人里に下りちゃう。人の蜜大好き。欲望に駆られて人を食べちゃうのだ。

だから、ヒトは自分たちの手で隔たりのを作り、そこに裁判という形でクマリアの片鱗たちが(3クマ達)宿った…という感じかな。

 

罪…嫉妬と攻撃、拒絶、傲慢

  • 嫉妬

だれか一人を選ぶことは、他のだれかを捨てること。相手にも自分だけを見ていてほしいし、それを脅かすものは邪魔でしかない。 純花を見殺しにした銀子。銀子に銃を打つように紅羽を煽ったるる。果てに愛する者を殺し、その娘を手に入れようと他の者を排斥しようとしたユリーカ。

嫉妬は当然の思いだけれど…それが招くのは、純花が食べられたり、銀子が撃たれたりといった、多くの者たちの心や体が傷つく悲しい展開。スキの嫉妬が他者への刃となったときにそれは「罪」になるし、少なくともそうやって他の誰かを傷つける行動で本当にスキを得られた者はいない。

  • 拒絶、傲慢などなど…そこかしこに転がる「罪」

他にも、ミルンの愛を何度も捨てたるるの拒絶、自分でなくて相手が変わることを望んだ紅羽の傲慢といった、間違った「スキ」の扱い方が描かれている。それらはいずれも「罪」と呼ばれ、正されなければ決して本物のスキに至ることはなかった。

連鎖するスキ、純花の役割

  • 本物のスキをあらわした存在

純花は、スキを間違え忘れていた紅羽に本物のスキを教えてあげた。傲慢の罪に気づかせ、本物のスキに至る道を示してくれた。紅羽にとって、純花は本物のスキの象徴。だから、あなたのスキは本物?の問いを持つクマリア様が、紅羽の目の前には純花の形に映ったのだと思う。

  • スキの繋がりが絶たれると…

純花はかませ犬的な存在といえなくもないけれど…かませ犬というにはもっと大切で神聖な存在。思うに、スキを教えてくれた人と、実際に思いを遂げる相手が違うというのは現実でもあるような気がする。例えば親が教えてくれた愛で、他の誰かを愛するように。そして、そのような愛し方を教えてくれる者がいなかったために悲しい道を歩んでしまったのが、ユリーカだったり、ヒトリカブトの銀子だったりするのだと思う。輪るピングドラムよろしく、スキは連鎖する。

るるが至った場所と紅羽銀子が至った場所

るる、銀子、紅羽…現実世界からみればみんな死んでしまったわけで…でもるると二人は、同じ場所にいるわけではなさそう。

 最終話一歩手前で銀子をかばって死んだるるは、最終話で、ミルンと同じ「スキがキスになる場所」にいた。そしてその上空へと画面がパンアップ。そこには月の世界と森の世界の間の空でキスをする銀子と紅羽。

るるは、銀子をかばって死ぬという自己犠牲を成したが、銀子は紅羽の方を向いているから、銀子と一緒になることはなかった。けれど、「スキがキスになる場所」にたどり着くことができた。銀河鉄道の夜で、沈みゆく船で他者に道を譲った青年と姉弟が天上に至れたように、るるのために蜂に刺されて死んだミルンと、銀子のために銃に撃たれたるるは、同じ場所に行くことができたのだと思う。行き先は一つではない。あなたとどこへ行こうかという問いを持った旅路。

 

余談:まだはっきりわからないところ…

‐紅羽と銀子は、初めて出逢う前から壁の向こうの互いの声が聞けた

-ミルンが星降る夜に生まれた演出

 誰かのスキが、るるのもとに来たのかなぁ。

 

感想

  •  ビジュアルはもう満点

画面はもうずっと綺麗で見ているだけで楽しめた。丸っこいクマ愛らしい、女の子綺麗、クマコスかわいい。絵本の絵なんかずっと眺めていられる。紅羽の家や色々なアイコン等、セットの細部までセンスもいい。そして最初から最後までそのクオリティが落ちなかったのがすごい。

  •  エロエロイチャイチャはやっぱりわからないかも

でも一方、ストーリー面であまりこのユリ熊の世界にがっちりハマることはできず、「次が気になる」というような気持ちも小さかった。

紅羽や銀子が結ばれるか否かにあまり関心がなかったのだ。二人が出会った瞬間から両想いで、至る所でみんながエロイチャする世界に興味が湧かなかった。ユリ裁判も、全裸の紅羽とエロいクマ達のじゃれ合いに若干引いたり。百合アニメ見て何言ってんだって話だが。

女子しか描かれない世界だからこそ、集団とか群れとかがうまく強調されていたような気がするので、百合が不要なんてことは全く思わないんですが。この甘さ、エロイチャも楽しめれば、もっともっとこの作品を好きになったと思う。

  • それでも最後はグッと来た

死んで幸せENDはちょっと悲しい。ええ~やっぱりそうなの、みたいな。もともと抽象度が高い世界観だったからそこまで衝撃的ではないし、死ぬという言い方も正しくないのかもしれないけれど…。自己犠牲から始まるといっても、やはりキャラがこの世から離れるのは悲しい。スキが実る場所へと至れた二人やるるの姿は尊くて美しいけれど、それで万事OKとは思えない。私たちはこの世にいるのだから、この世であがいて欲しい気持ちの方が大きい。

だから、このみと女の子の物語の始まりという形で、この世界に希望が残されたのは本当に良かった。終わりだけれど、終わりじゃない。彼女たちのような存在は、いつか透明の嵐を砕く希望。最終話でOPが始まる演出ってよくあるけれど、これは本当に感動した。

----

3か月間、存分に楽しみましたユリ熊嵐。漫画はまだまだ続くようで…こちらも読む。

 

 -----

他作品の記事リストはこちら