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ダンジョン飯/九井諒子(1巻~【以下続刊】) ファンタジー設定への鋭いツッコミ

 

ダンジョン飯 1巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))

ファンタジー系のRPGをやっていると「すっかりお約束の出来事だからあまり気にしないが、よくよく現実に即して考えるとおかしなこと」というのが結構ある。

・他人の家を漁って金やアイテムを入手

・冬山でも腹丸出し、砂漠でもファーコート

・HP尽きたらダンジョンの入り口へ自動送還……などなど。

こうした数ある不思議の一つ、食料問題について「それっぽい」具体的な対応策を描いた作品がこのダンジョン飯。「そういやこいつら敵の根城に入ってもう一週間以上経つけど、ご飯どうしてるんだ…」なんて疑問に対して用意された回答はシンプル。「モンスターを食べればいいじゃない」
 
「それっぽく」描くのが上手
著者の作品には、以前からファンタジーの世界を現実的な視点から描くものが多かった。例えば、「魔王討伐後の勇者」「魔王がいなくなったあとの魔王城の使い道」など、お約束ファンタジーを現実的な観点から描くパターン。あるいは、「現代社会にケンタウロスがいたら」「竜がいたら」「羽根の生えた人間がいたら」など、日常にファンタジー要素を潜り込ませてその有り方を具体的に描くパターン。

ファンタジー世界に現実味を入れるか、現実世界にファンタジー要素を入れるかといった違いはあるけれど、どちらもファンタジーと現実のギャップをうまく結びつけて、不思議な説得力のある世界を作り出していた。

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九井諒子.竜のかわいい七つの子.「狼は嘘をつかない」より.:特に上手いと思ったのがこの「現代社会に狼男いたら」を描いた作品。狼男を一つの病とし、よくある闘病エッセイ風に語るところから話は始まる。エッセイの著者が初めの一コマでお辞儀していたり、ロゴの「ワン」に耳が生えていたり…エッセイの語り口が本当に自然すぎて、不覚にも一瞬、実際にそういう病があるのかと思わされた…
さてこのダンジョン飯も例に漏れず、ファンタジー世界のご飯を具体的に「それっぽく」描いている。食にまつわる「材料調達・調理・味」の流れ全てについて、なんの省略も無しに納得できる工程を積み重ねているのだ。モンスターが材料なのに。架空の材料に具体的描写を重ねまくる。何てシュールで滑稽なんだろう。ウケる。

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九井諒子.ダンジョン飯.第1話より.:スライムについての描写。製法もそれっぽく、ノリの天日干し的な風景。(昔、虚構新聞「バームクーヘンの天日干し最盛期」の記事があったのを思い出した)しかし干しスライムて…
美味しそう…とはいわないけれど、見ていて納得できる食事内容…面白い…。また、ご飯だけじゃなくて「死亡」「全滅」についても語られているのだけれど、これもなるほどと思わされるような描きっぷり。全体的に、ファンタジーお約束のちょっとおかしいところを適度に小馬鹿にしてる感があって笑っちゃう。ギャグもややシニカルな感じ。ファンタジーと現実を扱うバランスがちょうどよい。

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九井諒子.ダンジョン飯.第1話より.:竜に食べられた妹を助けるのが目的なのだが…ww集中線のオチコマで笑う。ギャグが淡々としているけれどキレがあっていい。

王道少年少女漫画とはちょっと違うとけれど、気軽に読めて笑えるし絵も綺麗。アマゾンランキング一位なのも納得な安定した面白さがある。この先、食事としてのモンスターや、ファンタジーへのツッコミについて、どれくらいアイデアを出せるのか見もの。キレを維持したまま走り切って欲しいな。なかなかの良作です。期待。

 

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