漫画のメモ帳

早口で漫画について話すブログ

ちひろ/安田弘之(上下巻【完結】) 何者になるのかは自分が決める、孤高の美しい人

ちひろ 上

 主人公は「ちひろ」という源氏名の風俗嬢。清楚な地味系の佇まいながら、ファッションヘルス「ぷちブル」のNo.1。飄々としていて、自由。天然っぽいかわいさもある。そして、少しの狂気を感じる。そんな彼女と、それを取り巻く人々の日々を描いた作品。

魅力は、奔放なちひろのかっこよさ。壊れているともいえるような複雑な心の内。自由で浮世離れした彼女と、それに対比される俗世の人々の生き方。

 誰かから愛される、社会から認められる…そんな他者からの承認を得るためのレースから、彼女は降りている。自分が認めた自分になる、その有様はとても美しい。一方で、他者との関わりの中で得られる幸せがあることもよく知っている。矛盾したような生き方を続ける彼女はどこへたどり着くのだろう。

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上巻のラストで、ちひろは自発的にぷちブルをやめる。店長の「金と設備それ以外でウチよりいい店はない」という言葉の通り、その労働環境は良好。スタッフ同士の人間関係も円滑で、お客さんも良い人が多い。そんな場所をちひろは自ら手放す。

普通の人は、手に入れた幸せな場所を手放さないで大切に抱え込む。でもちひろは大切なものだからこそ、それを捨ててしまうようだ。

「 風俗嬢である」ことが全て

ちひろはもともと普通のOL、吉澤綾だった。愛想笑いをし、セクハラに耐え、陰口に泣く。世間に馴染むため、社会で居場所をつくるため、親の前ですら無理をしていた。

その後、「風俗嬢ちひろ」となった彼女。「吉澤綾」を手放した彼女は、もはや吉澤綾の居場所をつくるために、自分を殺す必要はなくなった。彼女は本来の自分であることを辞め、社会や世間といったものから離れることで、より自由に自分らしく振る舞える場所を手に入れた。

ちひろは、風俗嬢である。それ以外の何者でもない。出身や、親兄弟、友人、形成された価値観…そういった社会との関わりや背景は、すべて綾の方に置いてきた。ちひろのアイデンティティーは、風俗嬢であるということだけ。

だから、ちひろにとっては「風俗嬢であることを実現すること」こそが、風俗嬢をする目的。金や、プライドや、心の安寧のためにではない。だから、例えば同僚の風俗嬢達が、嫉妬心を燃やして男を取り合ったとしても、ちひろはそこに積極的には参加しない。「人」である他の風俗嬢や客は心で動くけれど、「風俗嬢ちひろ」は心で動かない。どんな客相手でも、決して風俗嬢以外の自分を見せることはない。この上ないプロとして振る舞えるのだ。

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安田弘之.ちひろ.上巻第2話「枯れない花」より.:大谷さん(客)の心は花咲けば枯れることもあるけれど、ちひろはちがう。「風俗嬢である」ほかの何物でもない。いつでも咲いているように見せることができる。

幸せのために幸せと距離を取る 

普通の人が持つような周囲との関係性を捨てた彼女は、それはそれは自由で飄々として魅力的だった。それ故に、彼女は彼女の予想以上に周囲に受け入れられることとなる。そして、ぷちブルは「ただ風俗嬢としてのちひろを実現する」ことを超えて、いつか捨ててきた周囲との関係性や、そこで生じる心の動きを与えるような、あたたかな場所になってしまった。

「風俗嬢ちひろ」に徹して生きているからといって、当然、彼女に心がなくなったわけではない。彼女には、ぷちブルにいる自分の状況を幸せに思う気持ちがある。そして、それを失くした時のことを想像して、喜ぶ。「失くしたことで心痛める自分」に喜んでいるのだ。痛める心があること、手放すのが惜しくてしょうがなるほどの大切なものを手に入れたことが、たまらなく嬉しい。

手に入れたものを手放すことで、自分が大切なものを手に入れられたことを確認して喜ぶ。そして、そのようにして何かを得ることができる自由な「ちひろ」であり続けるために、「ちひろ」をこえて「自分」に何かを与えてくれる場所を、切り離さなければいけなかった。

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安田弘之.ちひろ.上巻第8話「Gotta Get Away」より.:「幸せな時に限って思いつく 困った悪戯」「大切なものを失くす痛みで 私の心は息を吹き返す」。ちひろは泣いている。自分を傷つける矛盾したかのような決断をするちひろの姿と、満開の桜の風景。綺麗で切なく、少し恐ろしい。

何者になるかは自分が決める、そしていつか本物になる

  ちひろはかっこいい。普通の人ができないことをやる。自由で、堂々としている。「ちひろ」という偽の姿で進み続けることで、吉澤綾が成しえなかった「自分らしい生き方」を手に入れることができる。こうなると、もう綾とちひろのどちらが本当の自分なのかなんてわからない。そして彼女は「ちひろ」である方を選んだ。

この「ちひろ」の続編の「ちひろさん」では、彼女は風俗嬢をやめて弁当屋として働いている。「ちひろ」の連載は2001年、「ちひろさん」は2014年。10年以上の時を超えてきたわけだけれど、その姿は相変わらず飄々としていてホッとする。

そして彼女は、風俗嬢であったことも特に隠さず周囲に語っている。「○○出身です」というのと同じノリで、「風俗嬢でした」と告げる。吉澤綾であることは捨てた彼女。でも、「風俗嬢ちひろ」は、彼女にとって肯定されたバックグラウンドとなった。ちひろは、ちひろとしての人生を歩み続けている。

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安田弘之.ちひろ.下巻第13話「千尋の海」より.:「こうやってドーナツの中を泳いでいれば 海を手に入れることができるんだなぁって」「永久に前に進み続けて 結局どこへもたどりつかないで死んでいくなんて ただのアホですよね アホはいいですよ アホは」嘘の海の中でいきいきと泳ぐ色々な種類の魚を、客の男や風俗嬢と重ねる描写。すごい。この13話はこのページの他もずっと黒塗りの背景。水族館の窓のよう。

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軽妙なギャグがベースとなって話が進むなか、ちひろの核心を描いた象徴的なセリフやモチーフが差し込まれる。風景や心象の描写は、綺麗でどこか暗い。笑えるギャグシーンも多いのに、読後は静かな余韻が残る。

自分らしくあること、他者から認められること…そんな命題に対して一つの答えを選んだちひろ。飄々としていつでも自分らしくあれる彼女の在り方は、憧れる気持ちもありつつ簡単にはまねできないと思う。人々がしがみついているモノを必要としない、世の中の色々な「こうあるべき」を拒絶した人。孤高のヒーローのようでもあり、その強さはある意味壊れているようでもある。美しく、恐ろしい女性。

 

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ぷらせぼくらぶ/奥田亜紀子(単巻【完結】) 繊細で鮮やかなきらめきと残酷なキャラ設定

ぷらせぼくらぶ (IKKI COMIX)

すぐ隣の、「あの子」の世界は「あっち」側。 自分のしらないみんなのじかん。できごと。 岡ちゃんは思う。「私と違ってみんなは色んな場所に行けるんだ」

奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その4「さざなみ先輩」より.

学校というコミュニティの中には明らかに「階層」がある。容姿が良くてイケイケの人。デビューに成功した人。派手さはないけどそれなりに馴染む人。自分の世界にこもる人。冴えない人。いじられる人。いじめられる人。この作品は、主にその階層の「下の方」の人々をメインに、日々の様子と揺れる心情を描いたもの。

内面の描写が劇的

学校の中ではモブキャラ扱いの彼らでも、当然、その内側には色々な気持ちを秘めている。不格好ながら少女漫画のような「運命」を信じていたり、自分のおかれている境遇にうんざりしていたり…そして、その心情の描き方がとてもきれい。通常は学校生活の様子が至って現実的に描写されているのだけれど、人物の気持ちにグッと近づいたとき、比喩的抽象的なコマがバンと差し込まれる。学校の中での立ち位置は冴えないものであっても、その内面は彩豊かなのだ。この心情の描き方がこの漫画の魅力の一つ。

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奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その3「放課後の友達」より.:イケてない武庫川は、イケてるヤツらに都合のいいように扱われる。笑って流すが、内面は静かに自分を殺して静かに絶望。息をのむような劇的で的確な描写…

これでもかと描かれる「隔たり」

この作品のメインの主人公は女子中学生の「岡ちゃん」。容姿も悪く、空気も読めず、冴えない。でもぼっちというわけではなく、田山という友人がいる。そして、残酷なのがこの田山が岡ちゃんより少し上の存在であること。田山も冴えないタイプなのだけれど、次第に岡ちゃんとの差が明らかになっていく。田山には岡ちゃん以外の友達もいる、クラスの男子とも話せる、冴えないながらも彼氏ができる。そして、摩擦や消耗は、異なる階層の人間同士の間で発生しやすい。田山と岡ちゃんもなんかズレてしまう。そうした失敗の様子もこの作品の魅力の一つなのだけれど、苦しい。

そもそも、キャラの外形からしてもう隔たりが明らか。田辺は普通の頭身なのに対し、岡ちゃんは低頭身でデフォルメされたような描き方。あともう一人、土屋という男子も出てくるのだけれども、彼も同じ描かれ方。この二人以外は、何か不細工な特徴づけがされていたとしても、あくまで普通の範疇の見た目。でも、この二人は違う。明らかに異質で、他のキャラと並ぶと変。「この2人は明らかに皆とは違う、輪に入れない」と言っているようで、結構エグいビジュアル設定だと思う。

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奥田亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その1「僕の望み」より.:田山と小さな岡ちゃん。/奥山亜紀子.ぷらせぼくらぶ.その3「放課後の友達」より.:小さな土屋と武庫川。岡ちゃんと土屋はギャグ描写等でこういう頭身になっているのではなく、常にこの状態。

岡ちゃんも悪いあたりさらに苦しい

岡ちゃんは、うまく人付き合いができない。気の利いた言葉選びができない。その場その場で相手の気持ちを汲み取った行動もできない。そして、それは時に「不器用」の域を超えて「無神経」として他人に不快感を与える。「周りが岡ちゃんを迫害しているからいけない」という構図ではない。「うまくできない岡ちゃんがいけない」のだ。

岡ちゃんや土屋が人とうまく付き合えない根本の原因には、容姿が良い悪いとか、ノリがいい悪いとか、そうしたロジカルじゃない雰囲気が絶対的な価値を持つ世界の中で、色々な機会から締め出されてきた背景があると思う。これらは「岡ちゃんのせいではない」ことだけれど…悲しいかな、それが今この時点で岡ちゃんが無神経な行動をとったことに対する情状酌量の要素にはならない。岡ちゃんだって、自分の振舞がいけないのはわかっている。でもうまくできない。苦しい…

 隔たりがあっても繋がる瞬間

「摩擦や消耗は、異なる階層の人間同士の間で発生しやすい。」とか暗いことを書いたけれど、生まれるのは負の感情だけではない。嫌になるようなことの方が多くなるかもしれないけれど、そうじゃないことだってある。思わぬ人が声をかけてくれたり、こちらに気づいてくれたり、心を寄せてくれたり。一瞬のことかもしれないけれど、それは何か太陽から強い光を浴びたような、優しくきらめいた瞬間になる。そういう情景がこの作品には描かれている。

 うまくいかない、でも光があたっていた瞬間も確実にあった。そういうきらきらした瞬間を集めて、成長していく。嬉しいような悲しいような、そんなもどかしい青春のお話。

 

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新たに読んだ漫画買った漫画【2015年9月】

よかった順にざっくり並べて。作品名/読んだ巻数/(レーベル)/作者

 

【完結】

 

【単巻】

 

【続刊アリ】


【雑誌、他】

  • ヒバナ 2015年10/10号

 

【続刊アリ…でもひとまずココまで】

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漫画アニメのオールタイムベスト

漫画アニメ等で好きな作品、順不同。記事で触れたものは色付きリンク付き。

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★★★オールタイムベスト★★★

漫画

レイリ:室井大資岩明均 / この世界の片隅に:こうの史代 / 夕凪の街 桜の国:こうの史代 / 東京命日:島田虎之介 / ちひろ:安田弘之 / リトル・フォレスト:五十嵐大介  / 魔女:五十嵐大介 / リバーズエッジ:岡崎京子 / 夜、海へ還るバス:森下裕美 / 船を建てる:鈴木志保 / らんま1/2:高橋留美子 / チェンソーマン:藤本タツキ / 火の鳥:手塚治虫 /  自虐の詩:業田良家 / 絶対安全剃刀:高野文子 / 赤い雪勝又進作品集:勝又進 / WetMoon:カネコアツシ / 茄子:黒田硫黄 / モディリアーニにお願い:相澤いくえ /銀河の死なない子供たちへ:施川ユウキ / 大奥:よしながふみ / 女の園の星:和山やま / 

封神演義:藤崎竜1巻2巻3巻、)/ シュトヘル:伊藤悠 / 森山中教習所:真造圭伍 おやすみプンプン:浅野いにお あさひなぐ:こざき亜衣 /

砂時計:芦原妃名子 / シックスハーフ:池谷理香子 / 笑う大天使:川原泉7SEEDS:田村由美 / トーチソング・エコロジー:いくえみ綾 / PradiseKiss:矢沢あい /  チャンネルはそのまま!:佐々木倫子 / のだめカンタービレ:二ノ宮知子 /  半神:萩尾望都 /  天才柳沢教授の生活:山下和美 / マリーマリーマリー:勝田文青い花:志村貴子 清々と:谷川史子 燕京伶人抄:皇なつき / シュガーはお年頃:二宮ひかる / 1122:渡辺ペコプリンセスメゾン:池辺葵 / そこをなんとか:麻生みこと / 先生の白い嘘:鳥飼茜 / 海街diary:吉田秋生 / 水は海へ向かって流れる:田島列島

はこにわ虫:近藤聡乃 / 虫けら様:秋山亜由子 / こんちゅう稼業:秋山亜由子 / 虫と歌:市川春子 / 向こう町ガール八景:衿沢世衣子 / オトノハコ:岩岡ヒサエ / 少年少女:福島聡 / 群青学舎:入江亜季 / チキタGUGU:TONO / ないしょの話:山本ルンルン/  マルスのキス:岸虎次郎 / 

アニメ

妄想代理人 / パプリカ / 輪るピングドラム / モノノ怪 / 交響詩篇エウレカセブン / カイバ / ケモノヅメ / serial experiments lain / ファンタジックチルドレン / 精霊の守り人 / もののけ姫 / 無限のリヴァイアス / ラーゼフォン / ノエイン ~もうひとりの君へ~ / 老人Z / 

その他

 FF8 / FF9 / ICO / ワンダと巨像 / 十二国記 / 1Q84 /

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★★とても好き★★

漫画

SLAM DANK:井上雄彦 / ヒカルの碁:ほったゆみ小畑健アイシールド21:稲垣理一郎村田雄介 / 暗殺教室:松井優征 / 鬼滅の刃:吾峠呼世晴 / アイアムアヒーロー:花沢健吾 / ご近所物語:矢沢あい竹光侍:松本大洋 /  Sunny:松本大洋 / へルタースケルター:岡崎京子DEATHNOTE:大場つぐみ小畑健ハチミツとクローバー:羽海野チカ / 動物のお医者さん:佐々木倫子あたしンち:けらえいこ /ファイアパンチ:藤本タツキ鋼の錬金術師:荒川弘 / 花に染む:くらもちふさこ / ベイビィ★LOVE:椎名あゆみ / こどものおもちゃ:小花美穂 / 毎日かあさん: 西原理恵子 / 失恋ショコラティエ:水城せとな / スピリットサークル:水上悟志 / 進撃の巨人:諌山創 / 銀の匙:荒川弘イグアナの娘:萩尾望都 / BEASTERS:板垣巴留 / 姫様”拷問”の時間です:春原ロビンソン・ひらけい / 金剛寺さんは面倒くさい:とよ田みのる / お迎えにあがりました。~国土交通省国土政策局幽冥推進課:竹林七草・桜井みわ・雛川まつり / 青のフラッグ:KAITO / はじめアルゴリズム:三原和人 / テンジュの国:泉一聞 / 

不思議な少年:山下和美 / HELLSING: 平野耕太皇国の守護者:伊藤悠 / お茶をにごす。:西森博之 / 愛しのアイリーン:新井英樹 / みどりの星:真造圭伍 / ノラと雑草:真造圭伍 / ぼくらのフンカ祭:真造圭伍 / 大きい犬:スケラッコ / うちのクラスの女子がヤバい:衿沢世衣子 / 僕たちがやりました:金城宗幸荒木光 / 満月エンドロール:野村宗弘  僕は麻里のなか:押見修造 / ハピネス:押見修造 / 惡の華:押見修造 / 100万円の女たち:青野春秋 / ケンガイ:大瑛ユキオ / それでも町は廻っている:石黒正数  / 辺獄のシュヴェスタ:竹良実  /ザ・ファブル:南勝久(第1部) / Sunny:松本大洋 / ランド:山下和美 / 海街diary:吉田秋生 / 可愛そうにね、元気くん :古宮海/ リウーを待ちながら:朱戸アオ / アイシテル~海容~:伊藤実 / イチケイのカラス:浅見理都 / ルーヴルの猫:松本大洋 / 戯けてルネサンス:山本中学 / 恋のツキ:新田章 / デスコ:カネコアツシ

月曜日の友達:阿部共実喰う寝るふたり住むふたり:日暮キノコ / リストランテ・パラディーゾ:オノナツメ / つらつらわらじ:オノナツメ /子供はわかってあげない:田島列島  / 空が灰色だから:阿部共実 / ちーちゃんはちょっと足りない:阿部共実蟲師:漆原友紀 / 聾の形:大今良時 /  ニコイチ:金田一蓮十郎  / ごっこ:小路啓之 / やさしい時間:清家雪子 / エマ:森薫 懲役339年:伊勢ともか  / 花とアリス殺人事件:道満晴明 / バビロンまでは何光年?:道満晴明 /メランコリア:道満晴明 /ひみつの階段:紺野キタ /  奈良未佐子短編集:奈良未佐子 / 女王の花:和泉かねよし / どこか遠くの話をしよう:須藤真澄 / 大きい犬:スケラッコ 都会の妖精たち:ICHIDA / ハムスターの研究レポート:大雪師走 / スペクトラルウィザード:模造クリスタル / 一日三食絶対食べたい:久野田ショウ / 心臓:奥田亜紀子 / ぷらせぼくらぶ:奥田亜紀子 / 烏に単は似合わない:阿部智理・松崎夏未 / 

トロイメライ:島田虎之介 / ソウルフラワー・トレイン:ロビン西 / 大阪ハムレット:森下裕美 / 難波鉦異本:もりもと崇 / はなしっぱなし:五十嵐大介 / そらとびタマシイ:五十嵐大介 / 海獣の子供:五十嵐大介 / ディザインズ:五十嵐大介紺野さんと遊ぼう:安田弘之 / 先生がいっぱい:安田弘之  / 刺星:中野シズカ / トモちゃんはすごいブス:森下裕美 / 失踪日記:吾妻ひでお / 大江戸酒道楽:ラズウェル細木 / 預言者ピッピ:地下沢中也 / ガードドッグ:くつぎけんいち,浅倉 / 涼あれよ星屑:山田参助 / どこか遠くの話をしよう:須藤真澄 / しまなみ誰そ彼:鎌谷悠希 / ペリリュー 楽園のゲルニカ武田一義・平塚柾柾緒 / 魚社会:panpanya / 友達として大好き:ゆうち已くみ / 13月のゆうれい:高野雀 / ま ばたき:ばったん / 湯神くんには友達がいない:佐倉準 / ボーイズ・ラン・ザ・ライオット:学慶人 / 月曜から金曜の男子高校生:森つぶみ / お兄ちゃんは今日も少しういてる:梅サト / 

龍の学校は山の上:九井諒子 / バベルの図書館:つばな / 響子と父さん:石黒正数  / ネムルバカ:石黒正数 /  思春期シンドローム:赤星トモ /  12連休:吉田覚  / ヴォイニッチホテル:道満晴明アニメがお仕事!:石田敦子 / 魔法のお時間よ:内海まりお / ラブラブエイリアン:岡村星 / オンノジ:施川ユウキ / LOVE SYNC DREAM:藤原カムイ /  兎が二匹:山うた / うさうさにゃんにゃん:吉本蜂矢 / 独身OLのすべて:まずりん / ヒナまつり:大武政夫 / A子さんの恋人:近藤聡乃 / あげくの果てのカノン:米代恭 / 惑星クローゼット:つばな / アラサーちゃん:峰なゆか / さんさん録:こうの史代 / VRおじさんの初恋:暴力とも子 / バクちゃん:増村十七 / メタモルフォーゼの縁側:鶴谷香央理 / 2DK:竹内左千子 / ペンとハウス~ペンは飼い主が大好き~:家田明歩 / 人馬:墨佳遼 / きみにかわれるまえに:カレー沢薫 / さめない街の喫茶店:はしゃ / 大家さんと僕:矢部太郎

潔く柔く:いくえみ綾 / カズン:いくえみ綾プリンシパル:いくえみ綾 / 私がいてもいなくても:いくえみ綾 /  太陽が見ている(かもしれないから):いくえみ綾あなたのことはそれほど:いくえみ綾 君に届け:椎名軽穂 クールガイ:片岡吉乃 /先生の白い嘘:鳥飼茜  / ご主人様に甘いりんごのお菓子:藤田貴美ふれなばおちん:小田ゆうあ / 町でうわさの天狗の子:岩本ナオ / 金の国・水の国:岩本ナオ / 僕等がいた:小畑友紀 / パティスリーMON:きら / 高台家のひとびと:森本梢子 / 逃げるは恥だが役に立つ:海野なつみ / 天然コケコッコー:くらもちふさこ / 溺れるナイフ:ジョージ朝倉 / 愛すべき娘たち:よしながふみ 雁須磨子:こくごの時間  / がんこちゃん:萩岩睦美 / ラウンダバウト:渡辺ペコ / かたわれの街:勝田文 /東京タラレバ娘:東村アキコ(1~3巻)  / 女の子の食卓:志村志保子 / 海月と私:麻生みこと / おはようおかえり:鳥飼茜 / 町田くんの世界:安藤ゆき /  娘の家出:志村貴子/ まんまるポタジェ:あいざわ遥 / ララバイ・フォー・ガール:松崎夏未 / トナリ: おおさかけい / あした死ぬには、:雁須磨子 / 監督不行届:安野モヨコ / 愛がなくとも喰ってゆけます。:よしながふみ / ZUCCA×ZUCCA:はるな檸檬 / 観用少女プランツ・ドール:河原由美子 / さよならガールフレンド:高野雀 / 彼女と彼氏の明るい未来:谷口奈津子 /  サーカスの娘オルガ:山本ルンルン

薔薇だってかけるよ:売野機子 / 同級生代行:売野機子 / ネコミチ:岩岡ヒサエ / 土星マンション:岩岡ヒサエ /  にんぽぽ123:鈴木志保  / 鉄道少女漫画:中村明日美子/ 乱と灰の世界:入江亜季 / おかえりピアニカ:衿沢世衣子 / シンプルノットローファー:衿沢 世衣子 / 恋泉-花情余話曲:皇なつき /  あとかたの街:おざわゆき / 白い街の夜たち:市川ラク / B.B.Joker:にざかないばら姫のおやつ:石田敦子 / もしくはルーズソックス:藤緒あい / 彼女のカーブ:ウラモトユウコ / アイシテル:伊藤実 / 我らコンタクティ:森田るい / 惑星クローゼット:つばな /ノケモノと花嫁:中村明日美子 / 魔法が使えなくても:紀伊カンナ / 月と博士:坂田靖子 / 機械仕掛けの愛 : 業田良家 / 月と金のシャングリラ:蔵西 / だから私はメイクする:シバタヒカリ・劇団雌猫 / 捨てられた皇妃:INA / 姫と騎士たち:山本白湯 / Bread&Butter:芦原妃名子 / ビューティフルピープル・パーフェクトワールド:坂井恵理 / 岡崎に捧ぐ:山本さほ / とりかえ・ばや:さいとうちほ

スメルズライクグリーンスピリット:永井三郎 / 同級生:中村明日美子 / きのう何食べた?:よしながふみ / となりのロボット:西UKO  / こども・おとな:福島鉄平 / アル中ワンダーランド:まんしゅうきつこ / 湯遊ワンダーランド:まんしゅうきつこ / レズと七人の彼女たち:中村キヨ / バララッシュ:福島聡 / マイ・ブロークン・マリコ:平庫ワカ /  夢中さ、きみに。:和山やま / 制服ぬすまれた:衿沢世衣子

こくう物語:鈴木翁二 / 少女椿:丸尾末広 / 方舟:しりあがり寿 / かわいそうな真弓さん:西村ツチカ / 夜とコンクリート:町田洋 / 夢から覚めたあの子はきっとうまく喋れない:宮崎夏次系 / 成程:平方イコルスン / 水鏡奇譚:近藤ようこ / 青い車よしもとよしとも / さくらの唄:安達哲  / アンラッキーヤングメン:藤原カムイ,大塚英志 / 赤色エレジー:林静一 / ロマンス タムくんのラブストーリー短編集:ウィスット・ポンニミット / ホテルカルフォリニア:すぎむらしんいち / ストレニュアス・ライフ:丸山薫 / よろいこびのうた:ウチヤマユージ / エムさん。:エム。 / 

 

アニメ

日本アニメ(ーター)見本市(ME!ME!ME!、GIRL)コングレス未来学会議 / 花とアリス殺人事件

サマーウォーズ / 時をかける少女/  WOLF'S RAIN /  プラネテス  / 東京ゴッドファーザーズサムライチャンプルー / ピンポン / カウボーイビバップ / 攻殻機動隊シリーズ / マインドゲーム / ベルヴィル・ランデブー / 天元突破グレンラガン / バッカーノ!/LAST EXILE / 東のエデン / ハチミツとクローバー / それでも町は廻っている / Paradise Kiss / 言の葉の庭 / TIGER&BUNNY / 涼宮ハルヒの憂鬱 / BLACK LAGOON / ミチコとハッチン / 四畳半神話大系 / 桜蘭高校ホスト部 / 獣の奏者エリン / Darker than BLACK -黒の契約者 / 御先祖様万々歳 / CATMAN / 銀河鉄道の夜 /

 

[連載中]

魔入りました入間くん:西修 / 空挺ドラゴンズ桑原太矩 / Dr.STONE:稲垣理一郎BOICHI / 葬送のフリーレン:山田鐘人・アベツカサ/ 怪物事変:藍本松 / チ。地球の運動について : 魚豊 / 逃げ上手の若君 :松井優征 / ハイパーインフレーション:住吉九 / ハコヅメ~交番女子の逆襲~:泰三子 / ここは今から倫理です。:雨瀬シオリ / 図書館の大魔術師:泉光 / 血界戦線:内藤泰弘 / 夏目アラタの結婚:乃木坂太郎 / 二月の商社:高瀬志帆 / 大ダーク:林田球 / ボールルームヘようこそ:竹内友 / オオカミライズ:伊藤悠 / スキップとローファー:高松美咲 / 

青野君にふれたいから死にたい:椎名うみ / ワールドトリガー:葦原大介 / ゴールデンカムイ:野田サトル / 銀河英雄伝説:藤崎竜 /よつばと:あずまきよひこ / ヴィンランド・サガ:幸村誠 / 宇宙兄弟:小山宙哉 / 3月のライオン:羽海野チカ /BLUE GIANT:石塚真一 / デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション:浅野いにお /ドリフターズ:平野耕太 / ゴールデンゴールド:堀尾省太 / ザ・ファブル:南勝久/ 血の轍:押見修三 /  乙嫁語り:森薫 / 傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン:磯見仁月 / 将国のアルタイル:カトウトノコ / Artiste:さもえど太郎 / 海辺のキュー : 背川昇 / GROUNDLEE:影待蛍太 / フールナイト:安田佳澄 / デーリィズ:めごちも / サラウンド:紺津名子 / 踊るリスポーン:三ヶ嶋犬太郎 / 堕天作戦:山本章一 /

アシガール:森本梢子 /  おひとりさま物語:谷川史子  / ちはやふる:末次由紀健康で文化的な最低限度の生活:樫木ハルコ  娘の家出:志村貴子/ 淡島百景:志村貴子/ 来世ではちゃんとします:いつまちゃん / セクシー田中さん / HIGH SCORE:津山ちなみ / かげきしょうじょ!:斉木久美子 /  おちたらおわり:すえのぶけいこ / ブランチライン:池辺葵 / かしましめし:おかざき真理 / 三拍子の娘:町田ロメロ / 薔薇王の葬列:菅野文 / サターン・リターン:鳥飼茜 / ながたんと青と-いちかの料理帖-:磯谷友紀 / 日に流れて橋に行く:日高ショーコ / マロニエ王国と七人の騎士:久井諒子 / 凪のお暇:コナリミサト / おとなになっても:志村貴子 / 青に、ふれる。:鈴木望 / さよならミニスカート:牧野あおい:

ダンジョン飯:九井諒子カルバニア物語:TONO / 乙嫁語り:森薫 / ハクメイとミコチ:樫木祐人 /  死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々阿部共実 / 月曜日の友達:阿部共実 / ひとりでしにたい:カレー沢薫・ドネリー美咲 / AV女優ちゃん:峰なゆか / ヴァンピアーズ :アキリ / 死ぬときはまばゆく : 小鳥遊ミズキ / ダブル:野田彩子 / コーポ・ア・コーポ:岩浪れんじ / あなたはブンちゃんの恋:宮崎夏次系 / ガチ恋粘着獣~ネット配信者の彼女になりたくて~:星来 / 戦争は女の顔をしていない:小梅けいと / 春風のエトランゼ:紀伊カンナ / 

 

 

★その他記事で触れた作品★

漫画

亜人ちゃんは語りたい:ペトス(1~2巻)親なるもの 断崖:曽根富美子/ 情熱のアレ:花津ハナヨ /  外面が良いにもほどがある:尾崎衣良 / ぷらせぼくらぶ:奥山亜紀子俺物語!!:アルコ・河原和音1~7巻/ 東京喰種:石田スイ / 東京タラレバ娘:東村アキコ(1~3巻)  /

アニメ

ユリ熊嵐 日本アニメ(ーター)見本市(ENDLESSNIGHT)バケモノの子 攻殻機動隊ARISE新劇場版 / おそ松さん / 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ / ルパン三世(2015)

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新たに読んだ漫画買った漫画【2015年8月】

よかった順にざっくり並べて。作品名/読んだ巻数/(レーベル)/作者

【完結】

 

【単巻】

  • マジック・ポイント/(FEEL COMICS)/岡崎京子, 大原まり子
  • 秋の日は釣瓶落とし/(アクションコミックス)/岡崎京子
  • ピンク・ラッシュ/(ひらり、コミックス)/TONO
  • 私の嫌いなおともだち/(ひらり、コミックス)/雁 須磨子
  • 深夜のダメ恋図鑑/(フラワーコミックス)/尾崎衣良
  • 宇田川町で待っててよ。/(onBLUE comics)/秀良子
  • この星のぬくもり 自閉症児のみつめる世界 /(ぶんか社コミックス)/曽根 富美子 
  • 外面が良いにも程がある。/(フラワーコミックスα)/尾崎衣良
  • カフェでよくかかっているJーPOPのボサノヴァカバーを歌う女の一生/(SPA!コミックス)/渋谷 直角

 

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コングレス未来学会議/監督:アリ・フォルマン 幻想の後ろで置き去りにされた自分と真実

なんか刺激的なアニメを映画館で観たいなぁと軽く思って行った「コングレス未来学会議」…刺激的すぎ。素晴らし!

私は、今敏やデヴィッドリンチのあの幻想なんだか現実なんだかわからない世界って大好きなのですが、それと同じラインにある映画だと思う。何が幻覚?何が現実?認識=真実、願望=楽園というロジックが支配する果てのぐにゃぐにゃ絶望世界。

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2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。スクリーンでは若いままのロビンのデータが、出演を拒んできたSFアクション映画のヒロインを演じ続けた――そして20年後、文明はさらなる進歩を加速させていた。ロビンはある決意を胸に、驚愕のパラダイスと化したハリウッドに再び乗り込む。

コングレス未来学会議公式サイト.STORYより:http://www.thecongress-movie.jp/story/

※完全ネタバレの感想と思い込みの解釈、勝手な考察。とっちらかってるので長いです。長いので先にまとめをもってきます。

 ※1回見ただけなので、以下文中のセリフ等は正確なものではありません(おおよその意味はそんなに間違ってないと思います)。

 

鑑賞後の解釈・感想まとめ

・難解、頭オカシイ系といっていい類の映画。翻弄される。でも、意外と素直に面白い。アニメの縦横無尽な抽象世界へ突入する前に、実写パートでキャラクターをちゃんと説明してくれるので、全く置いてきぼりにはならない。

・息子は、この世界の誰よりも先に、薬が出回る以前から自分力での幻想世界に足を踏み入れていた。

・息子に会うため、最後に彼女が選択した幻想はだめじゃない?彼女はずっとこだわっていた「ロビン自身であること」を手放してしまったし、それは息子が望むロビンとも違う。認識したいもの、願望の選択を誤る人がいる限り、ドラッグをはじめとする強い刺激に支配されて、理想の幻を見ることが、本当に得たかったものに繋がるとは限らない。

・アニメパートのラリってる具合がすごく楽しい。綺麗です。

・ちょっとロビンに厳しすぎやしませんかね。

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余裕の前半実写パート

データスキャンによってキャラクター化された「女優ロビン・ライト」。キャラは会社の所有物となり、与えられた役に文句をつけることなく、監督の指示通りの演技をこなす。そんなの冗談じゃない、私の役は私が「選択」すると大反発するロビン本人…しかし、彼女はこれまでその「選択」を誤ってきたのだ。自分に合わない作品をドタキャンしたかと思えば、焦りからくだらない映画に出演し…そうして誰からも見向きもされなくなった。

この辺りは、先端技術の登場により不要になった役割と、それに反発する女優の悲しき人生…って感じのプチSFドラマ風。内容も難解ではなくすんなりみれる。ロビンの心情に重きが置かれているし、息子娘との日々の生活や親子愛の描写なんかもあいまって、普通にTSUTAYAの「ドラマ」のコーナーに置かれそうな内容。ここは本当に誰でも素直に楽しめる。

ちょっと雰囲気が変わる息子の診察シーン

さて、こうしたドラマな流れの中、ロビンがオファーを受けるきっかけとなった息子アーロンの診察シーンがある。ここであれっと思った部分が二つ。

1つは、アーロンの言葉。彼は飛行機が大好きで、つい先日も小さなグライダーの模型を手に入れて大喜び。そして先生に自慢げに告げるのだ。「今この模型をもとに、5メートルくらいの本物を作っているんだ」当然5メートルの飛行機製作なんて子供じゃ無理だし、そんなシーンも無い。子供の冗談として先生も流すのだが…でもこのアーロン、そんなジョークを言う感じの子じゃないんだよなぁ。彼は一体何を言っているのだろう。

もう一つの違和感は、先生の言葉。検査の結果、アーロンは言葉を正しく聞き取れないことがわかる。例えば「涙(tear)」が「恐れ(fear)」に聞こえてしまうというように、外界からの刺激を自分の中で別のモノとして認識してしまうのだ。これを見た先生は突然興奮気味に語る。「彼は自分の中では「王座」も「孤独」に変わる。彼の中で、彼独自の解釈によって世界が造られている。これは数十年も先の未来の映画技術のようだ」…いきなり、なにかに取り憑かれたかのような先生。今まで悲しき女優のSFドラマだったのに、ここだけカラーが違う。ロビンも「何言ってんの」って感じだったけど、観ているほうもそんな感じ。

女優の人生と息子の難病というヒューマンドラマ風味の流れの中に、「何か違う世界」の存在が徐々に頭を出し始め、なんだか心もとない感じになる。そして、これからが本番。

アニメパートへ…これ絶対作り手にヤク打ってる人混ざってるだろ

 ロビンがオファーを受けてから20年が経った。ロビンはミラマウント社のコングレスに赴くのだけれど…ここからついにアニメパートが始まる。待ってました!!

ロビンは、コングレス会場への道中の検問で不思議な対応をされる。「この先は、アニメ限定区域です。アニメでないと通れません」と言われ、薬を渡されるのだ。そして、その薬をロビンが吸ったのち、画面が実写からアニメに切り替わる…

風景も、ロビン自身も、すべてアニメになる。ハイウェイは虹色に波打ち、平野にはクジラや魚が泳ぐ…やばい、眩暈がするよう。音楽も実写パートと全く違う…おおもう別の映画みたいだよ。アニメパート、エッジ効きすぎ。音楽も不穏でよい。キリストもブッダマグリットのリンゴ男もいるぜ。脳内麻薬世界。見に来た甲斐があった!!

コングレス

ロビンのCGキャラ契約が切れるその前夜、彼女は新たな契約を持ちかけられる。その内容は、「ロビン・ライト」が人々に摂取される「薬」となるというものだ。…はあ?という感じだが、つまりは「薬の力で、一人一人が己の中で、見たい姿のロビン・ライトを認識できるようになる」というもの。わざわざ映画という形でロビンの情報を外から与えなくてもよくなるのだ。娯楽が、映画から薬へと変化する。

 ロビンが検問で与えられた薬はこの種のもの。自分が認識する幻想世界へトリップする薬。「アニメ通行OK」とは、「この薬を受け入れて、幻想世界の住人となったものは通行OK」という意味だった。

「実体のある人間が演じなくてもいい。データでいい。見る側は人間と思うから」というものから更に進んで「データをみせることすらしなくていい。頭の中で理想のエンターテイメントを認識できるから」という世界になったのだ。薬を吸った人間は、マリリンモンローになったり、マイケルジャクソンになったりしてる。誰でも皆、頭の中で理想のスターと自分を重ねることができる世界がやってくる。 この20年目のコングレスは、娯楽が新たな段階へ進歩し、それが世界中に広がることを表明するためのものだった。

ああ観かたを間違えた

薬を飲んだ後はもう何が「実際にあったこと」なのか「ロビンの幻想」なのかわからなくなるのだけれど…。なんとか幻想と現実の切り目を探そうと考えて観てしまったのだが、無理。少なくとも一回目じゃ無理。

劇中、ロビンの泊まるホテルが停電になったとき、こんなやり取りがある…「ロビン:ねぇ、これは本当に停電してるの?それとも私にはそう見えているだけ?」「ホテル:究極的には全てがあなたの認識です」。そう、アニメパートに入ってからは「ロビンの認識」の世界に入っているのだ。何が実際に起きている事象なのかなんて、ほとんどわからない。

それでもこの作品がいいなぁと思うのは、何か感傷的なシーンではこちらもきちんと悲しい気持ちになれること。笑いについても然り。

抽象度や芸術性が高いとされる作品ほどキャラクター個人への感情移入って難しくなるように感じるのだけれど、この映画は前半できちんとキャラのドラマと世界の説明をしてくれていたおかげで、アニメパートでぐっと抽象度が上がっても感情的についていけるのだ。「キャラが何やってもよくわかんないし…」という感じにならない。データとして歳をとらなくなったロビンが、老いた姿で「forever young」という曲をバックに空を舞うシーンなんて、論理的な辻褄合わせはできなくとも何か心にくるものがある。

幻想と現実を横断する最高の見せ場

さて、アニメの世界=自分の中の幻想世界に迷い込んだロビンだけれど、気にかかるは息子アーロンのこと。もはやどれだけ時間が経ったのかはっきりとせず、彼が現実世界にとどまっているかもわからない。けれど、望みをかけてロビンは現実へ戻る…

もうこのシーン、最高。虜になるというか息をのむというか…。現実世界はそれはそれは悲惨な感じ。「自分の見たい幻想を見ることができるのって結構悪くないんじゃない?薬やCGによるイリュージョン万歳」なんて考えを完全に否定してる。

現実世界に戻ったロビンだが、結局アーロンがそこにはいないことを知る。彼は半年前に幻想世界へ旅立っていたという…なんとタイミングの悪い。そうしてロビンは再度薬によって幻想世界へ行く…

火山の音と黒い雲と5メートルのグライダー

アーロンは、ロビンの息子であるということ以上に、この物語においてかなり特別な存在だと思う。彼は視覚と聴覚が衰えるという難病を患っていて、もはや外部からの情報を正しく認識できなくなっている。彼は必然的に自分の中で自分独自の幻想世界を作り出していた。

まず「黒い雲」。彼は、旅客機の離着陸エリアの側で凧揚げをして怒られる。その時の言葉「もう少しだったのに。赤い凧と、白い飛行機と、黒い雲が重なる瞬間が好きなんだ。」…黒い雲って何だ。空は晴、白い薄雲はあったけど、黒い雲なんて無かったが。この答えは公式のキャラ説明にあった。「〜彼は凧を本物の旅客機に衝突させることを夢見ており〜」…彼は空で飛行機が黒煙をあげるのを夢想し、そしてそれをあたかも見た事があるかのように語っている。

あと「火山の音」。アーロン視点のシーンの際、この「火山の音」が何度か流れる。また、病院でこの音が流れた際に、一瞬だが人間の血管のような絵が現れる。手のひらを耳に押し当てるとわかると思うんだけれど、人間の血の流れる音や筋肉の震えって火山の音みたいなんですよね。アーロンは外界の音声を聞き取れないがゆえに、自分の内側の血潮の音をよく聞くようになり、さらにそれを火山と解釈しているんじゃないか。

そして「5メートルのグライダー」。クライマックス、アーロンは飛行機を作っていた。そしてこれ、かつて彼が手に入れた小さなグライダー模型そのまま。彼が、自分の幻想のなかで大好きなグライダーを作っていることは何の不思議もないが、問題なのは、この薬が世に広まるよりはるか以前、前半パートの診察シーンで既に「自分は5メートルの大きさの本物(のグライダー)を作っている」と告げていること…

先生が言ってた通り、物語の初めから、彼は誰よりも早く自分の幻想世界に入っていた。でも一方で、彼は現実世界にきちんと足を下ろしているようにも見える。多分、彼は辛い現実を生きるために必要な糧として幻想を見ていたんじゃないか。現実を見る事が出来なくなる薬とはちょっと違う。幻想と現実の間のギリギリのところでバランスをとり、懸命に現実を生きてきた。(しかし、そんな彼も心折れて薬を飲む…「半年前」、何かあったのかな。もう一度見たらわかるかなぁ。)

ロビンはうまく選択ができない

現実の世界にいながら、幻想に足を踏み入れていたアーロン。ロビンが彼のそばを離れなければ、現実にいたって幻想にいたって一緒にいれたのかもしれなかったのに。(実際、幻想世界においても、コングレス会場のホテルエントランスや、ヘリの上や、冷凍睡眠中の氷の世界で彼と会えているし。)

元ミラマウント社員が「僕をとるのか、息子を取るのか」なんて言ってたけれど、彼女はいつもの選択ミスでどちらも手に入れることができなかった。

そして、現実でも、どんなスターになれる幻想世界でも、頑なに自分であり続けたロビンなのに、とうとう最後に「ロビン」を手放してしまった。アーロンを追いかけるためにアーロンになったけれど、そんなロビンの姿をみた彼の顔。あれ、ハッピーエンドの顔か?(もう一度見ないとわからないけど多分違うと思う。苦笑い的な…)。ロビンはずっと選択ミスをしてた人間として描かれているけれど、これ、最後の選択もミスったんじゃないか。

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コングレス未来学会議.パンフレットより.:アーロンはもうずっと飛行機をつくりながら、「ロビン」を待っていたんじゃないかという気がするよ…

より強い刺激や薬で与えられた、個々人の頭の中の幻想。自分の観たいものを選んでいるつもりだけれど、実は自分自身を放棄していて、残されているのはボロボロの現実。

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昼ご飯の直後に観たのですが、ビールとか頼まなくて本当に良かった。酒飲んで観たら頭おかしくなりそう。小説を読んだ後、しばらく自分の中の思考の言葉がその小説の文体で再生されることがあるのだけれども、この映画は視覚でその現象が起こりそうでヤバい。大変面白かった。もう1回見たいな。

 

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封神演義/藤崎竜(第3部【全23巻完結済】) 太子と戦争前夜

今更語る封神演義第3巻。他の巻はこちら→1巻/2巻

封神演義 3 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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雷震子が輝いている

西への旅路、雷震子登場の巻。リアルタイムで読んでいた時は、哪吒、楊戩と並ぶ第3の仲間来た!…と思ったのものでした。仙界大戦でまさかの欠席だったり、表紙になれなかったりと、何かと不遇なヤツ。姫昌の息子なんてめっちゃイイポジションなのに。「仙人が人間界に干渉しすぎるのはよくない」という流れのために、その設定がフルで活かされることもなく。「バカ・火力系」っていう要素が哪吒とかぶっているせいもあって、影が薄くなってしまった。でも好き。

この雷震子戦でも太公望は余裕な感じ。喧嘩に付き合ってあげる様は、おじいちゃんと孫のようですらある…雷震子の必死なバカ真っ直ぐさに、太公望の飄々とした感じが強調される。

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藤崎竜.封神演義.3巻.第18回「太公望・アフロになる」より.:遊んでいる太公望。雷震子、八重歯の褐色キャラなんて目立つビジュアルなはずなのに。

太子…

そして登場する殷の太子2人。彼ら兄弟の存在はもうただ悲しい。「真面目でしっかりした兄と、無邪気な弟」なんてテンプレ性格だし、派手な仙人道士がバンバン登場する中での「人間の子供二人」なんて、そんなに印象深いものでもなかったのに。このありがちな性格設定が後にあんなに効いてくるなんて。

妲己から逃れるため、殷を離れた太子。そのまま太公望について行こうとする2人へ申公豹の説教が始まる。殷王家としての義務と宿命を説いているんだけれど、殷vs周の構図もまだ出来途中なこともあって、初読の時はそこまで重くとらえていなかった。それより、申公豹のラスボス感の方に気を取られていて、太子の存在なんて「超強い申公豹と太公望のピンチ」という形を作るためのアイテムくらいにしか思っていなかった。

しかし2回目以降に読むと、もうそんな軽くは見れない。ここで申公豹に従っても妲己の手にかかり、太公望側の助けに乗って崑崙に行ってもあんな最後になって…もうどうしようもない大きな流れのど真ん中にいた二人。

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藤崎竜.封神演義.3巻.第21回「太子二人Ⅱ」より.:強い兄と弱気な弟。この時の殷洪は、身を挺して守ってくれる兄の後ろで不安そうに小さくなっているだけだったけど…。後のことを考えるとこのシーンだけで悲しくなるよ。

封神計画の再説明と戦争の始まり

封神計画が「ただ悪い仙人道士を倒すだけでない」と気づいた太公望。一旦西への旅は辞め、崑崙に戻って原始から計画の内容を問い質す。計画は、良い王による統治を実現し、人間界を良い方向へ導くためのものとのこと。まぁ結局、この原始の説明も再び嘘なんですが…大事なのは当面のゴールが「太公望が悪い敵を倒す」という単純なものから、「殷を倒し、周を起こす」というものに変わったことが明らかに示された事。そして最後に聞仲の登場…来たぞ…。

今みると、太子登場、申公豹の言葉からの封神計画再説明、聞仲登場という流れで「国対国の話にスケールアップしますよ」ってことがかなり丁寧に説明されている。

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藤崎竜.封神演義.3巻.第24回「未来視たちのディアレクティーク 下」より.:聞仲登場。めっちゃかっこいい。この「紂王の臣下」というところが重要。仙人たちのドンパチだけではもう済まない。

3巻タイトル「未来視たちの弁証法

第23話では、申公豹と太公望の間で二太子の立場についての議論が交わされ、殷郊自身も「自分は生きてやらなくてはいけないことがある」という。24話では、太公望と原始の間で戦争と犠牲についての議論が交わされ、最後に登場した聞仲も戦いについての持論を展開している。

この23話、24話には「未来視たちのディアレクティーク(弁証法)」というタイトルがついているけれど、「未来視たち」とは、これら太公望、申公豹、原始、聞仲、太子のことだろう。激しく時代が動く中で、それぞれの理論や信念がぶつかり合い、それらが行き着く先は誰かの理論を単純に肯定したり否定したりするものではない…少年漫画で随分渋いタイトルをつけたもんだ。

 

今みると面白いところ

・申公豹の語る封神計画:「ですが彼が封神計画の真の意味を知れば…」というセリフの後の原始の説明という、ミスリードを誘う演出。申公豹のは打倒女媧のことを指している。

 ・かわいい方弼

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藤崎竜.封神演義.3巻.第20回「太子二人」より.:なにこの顔かわいい…

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読んでいるときは雷震子や申公豹(と、汚らわしい土行孫)のインパクトが強い3巻。でも読み終わった後に振り返ってみると、心に残るのはやはり太子たち。とてつもなく大きな時代の流れの中で必死に抗う姿は、強くてどこかもの悲しい、まさに封神キャラって感じの子供たちだった。

 

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